本のタイトルは内容を凝縮して伝えるものがイイというのが僕の考えなのだが、その点『「カッコいい」とは何か』は最高のタイトルだ。「カッコいい」とはそもそも何なのか。500ページ弱と長尺ながら、これ(だけ)を延々と論じる。実にカッコいい。

平野啓一郎著
1000円(講談社現代新書)
20世紀後半の価値観、文化に大きく影響を与えた「カッコいい」という概念について、掘り下げて考察した1冊。
「カッコいい」に限らず、ある概念を理解するためには、いったん具体の地平に降りなければならない。
音楽やファッションはもちろん、ヨーロッパのダンディズムやアメリカの「ヒップ」などのムーブメントや「男らしさ」といったジェンダーについての社会通念との関係、はたまたヤクザの行動様式まで、著者はありとあらゆる文脈で具体的に表出された「カッコいい」を考察し、そこから概念の正体へと接近していく。
「しびれる」という体感。ここに「カッコいい」という概念理解のカギがあると言う。体が「勝手に反応する」。すなわち「嘘偽りがない」。なぜカッコいいと思うのか。それは実際に「鳥肌が立っているから」。この問答無用性が「カッコいい」の核心にある。「カッコいい」にこそ、その人の本当が表れる。「わたしとは何か」というアイデンティティーに対する答えの重要な一端がそこにある。
考えてみれば、そもそも「考える」という営為は具体と抽象の往復運動である。考えるとはどういうことかを見せてくれるという意味でも面白い。言語総動員で一つの概念を突き詰める。思考のパワーに満ちた一冊だ。
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