
北 康利著
2200円(毎日新聞出版)
利他の考え方に根ざした経営姿勢と生き方で、多くの経営者が師と慕う稲盛氏の半生を著した一冊。
『生き方』『稲盛和夫の実学』などのロングセラーの自著はもちろん、稲盛和夫についてはこれまでに数多くの評伝が出版されてきた。「利他の心」「土俵の真ん中で相撲を取れ」「人間として何が正しいか考えろ」──強く重い言葉が信奉者を引きつけてやまない。京セラの創業。第二電電の挑戦。日本航空の再生。こうした稲盛の功績を追うことは本書の主眼ではない。むしろ、その背後にある経営者としての日々の思考と行動に焦点を当てる。強烈な求心力を持つ経営理念と哲学が、どのような状況で、どのような行動をきっかけとして稲盛の心中に定着したかをたどる。そこに本書の価値がある。
大学を卒業した稲盛は業績低迷にあえぐ松風工業に職を得る。セラミック部品の将来性に気づいた稲盛はめきめきと頭角を現す。自ら製品を開発し、大手顧客からの受注を勝ち取り、赤字垂れ流しの会社にあって唯一の収益部門「特磁課」を率いる。この起業前のくだりがとりわけ興味深い。
栴檀(せんだん)は双葉より芳し。一介の平社員であるにもかかわらず、稲盛は勝手に特磁課の「経営」を始める。開発や営業はもちろん、増員が必要となれば自ら採用活動に乗り出す。この時期に稲盛は早くも経営の絶対的本質──丸ごと全部を自ら動かす──をつかんでいる。後の「アメーバ経営」をすでに実践しているのである。渦を巻き起こし、ベクトルを合わせる。一体感の中で、仕事に生活の糧を稼ぐこと以上の意味が見えてくる。
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