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 これはマネジメントの本である。少なくとも、僕はそう読んだ。会社を経営していると、すべての人にとって最善の決断が必ずしもできるわけではない。全体を優先すると、どうしても、誰かの最善を犠牲にしなければならない。

今週の一冊
『福岡市を経営する』
高島宗一郎著 1500円(ダイヤモンド社)

国家戦略特区を獲得しスタートアップを支援するなど、地方自治、財政改革に取り組む福岡市長の挑戦の記録。

 政治の世界とは、まさにその決断の連続であり、36歳で人気番組のキャスターから突如として大都市福岡の市長に就任した高島宗一郎氏は、その決断の荒波の中に放り込まれる。ところが、当初の予想に反して、高島氏は福岡市を魅力あふれる都市に成長させたのだ。そして自らの政治家として、あるいはマネジャーとしての才能を開花させる。

 僕は、福岡にも店を持っている。そして、この春、福岡に2つ目の会社を創ろうと準備を進めている。なぜ、福岡という街に出店し、そして、2つ目の会社を福岡で創ろうとしているのか、実は、人に聞かれたとき、合理的に説明することができなかった。

 何となく、福岡が好きだから。何か、熱があるから。

 この本を読んで初めて、なぜ僕が福岡でビジネスがしたいと思っているかが分かった。この市長が作った「空気」に、安心感を覚えるからだ。たとえ後押しされることはなかったとしても、少なくとも邪魔をされるはずがないという空気をこの街が醸しているからだ。

 市長への就任は突然だったが、高島氏は政治家になりたいと元来思っていたという。だから、キャスターを選択したという。それゆえに、自ら発信し、直接有権者に問いかける現代型の政治家になれたのだろう。フェイスブックなど、インターネットでの発信にたけているのはもちろん、キャスターとして番組を作ってきた経験が生きてのことだ。

 しかし、これは、何も政治家だけの話ではないと思う。これからは、経営者自身が、積極的に発信していかなくてはならない。ただし、炎上すれすれの派手な発信ではなく、高島氏のような真摯な、市民を思った発信。ビジネスのステークホルダーのことを考えた発信が、これからの経営者に必要となるのではないかと思う。

日経ビジネス2019年5月20日号 90ページより目次