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キム・ジヨン。彼女は1歳になるかわいいジウォンちゃんの母親で、つい最近勤めを辞めて家庭に入った主婦だ。彼女はある日静かに、正常さから逸脱しはじめる。まるでジヨンさんの身体に別人が憑依したかのように、次々と女たちが表れる。女たちは、働き、駆けずり回り、子供を育て、姑に仕え、おさんどんをし、夫の失敗のしりぬぐいをする。誇らかに息子を産み、娘を堕胎し、布団に潜りすすり泣く。

 ホラーとも見紛う前半の緊張は、読者を女の悲しみに誘う。こらえにこらえてきた韓国の女性の怨念ともいえるような語りが、私たちを圧倒する。叫び出したい気持ちを押し殺し過ぎたジヨンは、魂が彷徨い出るかのように自らを見失う。彼女を、夫は十分に理解することができない。それもそのはず、彼の人生には女を見舞う様々な出来事は存在しなかったのだから。

 虐げられた者による語りは強力だ。韓国社会で見過ごされてきた悪を告発した本作はベストセラーになったが、同時に男女の分断を広げ、反感を煽るとして危険視された書物でもある。