京セラ創業者の稲盛和夫氏が自身の言葉で「経営12カ条」を解説する本連載。第11条では弱肉強食のビジネス社会でも思いやりが大切だと説く。自己犠牲を払ってでも相手に尽くす「利他の心」が経営者には必要だ。

(写真=PIXTA)
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 思いやりは、「利他の心」とも言い換えることができます。つまり、自分の利益だけを考えるのではなく、「自己犠牲を払ってでも相手に尽くそう」という美しい心のことです。私は、ビジネスの世界においても、この心が一番大切であると考えています。

 しかし、「弱肉強食のビジネス社会では、思いやりや利他などの実現は難しい」と考える方も多くいらっしゃることでしょう。そのため、思いやりの心が経営の世界でも大切であり、「情けは人のためならず」というようにその恩恵はめぐりめぐって自分にも返ってくることを、私が体験したひとつの例を通じて示してみたいと思います。

 京セラの米国子会社で、AVXという電子部品メーカーがあります。1980年代後半のことですが、京セラが総合電子部品メーカーとなるためにはコンデンサの世界的メーカーであるAVX社が必要だと判断し、当時の会長に買収を申し入れたのです。

 先方の会長も快く承諾してくれて、買収に当たって「株式交換」という手法をとることにしました。つまり、当時ニューヨーク証券取引所で20ドル前後だったAVX社の株式を5割増しの30ドルと評価し、その株を同じニューヨーク証券取引所で取引されていた京セラの株式(当時82ドル)と交換することを決めたのです。

 ところが、すぐにAVX社の会長から「株式のレートが30ドルでは安すぎるから、32ドルにしてほしい」という申し入れがありました。われわれの米国統轄会社の社長や弁護士は、そのような申し入れには真っ向から反対でした。しかし、先方の会長にしてみれば、株主への配慮から1ドルでも高くなるよう要求するのは当然と考え、私はその要求に応じることにしました。

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