京セラ創業者の稲盛和夫氏が自身の言葉で「経営12カ条」を解説する本連載。第6条では、経営の死命を制するのは値決めである、と説く。買い手が喜び、売り手も儲かる「最高の値段」を見抜くのは経営者の仕事だ。

私は、かつて京セラの役員を登用するとき、商いの原点がわかっている人でなければならないと考え、その登用試験として「夜鳴きうどん屋の経営」を考えたことがあります。
うどん屋の屋台の設備が買えるくらいの資金を役員候補に渡し、彼らに商売をさせてみて、何カ月後かに資金をどれだけ増やして帰ってくるか、それを競わせようとしたのです。なぜ、そのようなことを考えたのか。私は、屋台のうどん屋の商売に、経営の極意がすべて含まれていると考えたからです。
たとえば、うどんを出すとすれば、出汁は何からどのようにしてとるのか、麺は機械打ちにするのか手打ちにするのか、さらに具のかまぼこはどれくらいの厚みのものを何枚載せるのか、ネギはどこで仕入れてくるのかなど、たくさんの選択肢があり、それがそのままコストに跳ね返ってきます。つまり、うどん1杯とはいえ千差万別で、経営する人によって、まったく違った原価構成のものになっていくわけです。
また、屋台をどこに置き、いつ営業するのかという、出店立地の問題もあります。繁華街で酔っぱらい客を狙うのか、学生街で若者をターゲットとするのか、すべてその人の才覚が表れるのです。
そして、そのような諸条件をすべて決めたうえで「値決め」があるわけです。学生街で商売をしようとする人は、売値を抑えて数をたくさん売ろうとするでしょう。繁華街では、高くてもおいしい、高級感あふれるうどんにして、数は少なくても利益が出るようにしようとするでしょう。
つまり、うどん屋の商売には、経営のさまざまな要素が凝縮しており、その値決めひとつで、経営の才覚があるかどうかを測ることができるのです。そのため、役員登用の登竜門としたいと考えたのです。実際には実施していませんが、経営の死命を制するのは値決めであるということを固く信じています。
「最高の値段」を射止める
製品の値決めに当たっては、さまざまな考え方があります。前述したように価格を下げ、利幅を少なくして大量に売るのか。それとも価格を上げ、少量販売であっても利幅を多くとるのか。その価格設定はいくらでもあり、まさにそれは経営者の思想の反映であると言ってよいのです。

Powered by リゾーム?