京セラ創業者の稲盛和夫氏が自身の言葉で「経営12カ条」を解説する本連載。第3条では、何としても実現したいという強い思いを抱くことの大事さを説く。その考えの源流には松下幸之助氏との出会いがあった。

精神論だと笑われるかもしれませんが、極端に言えば、心に抱く思い、願望がわれわれの人生を決めるのだと思います。あなたがいま歩いている人生は、あなたが心に描いたとおりのものです。
ともすると、自分が歩いている人生を、他人任せにしている人がいます。自分自身がつくったものだとは思わず、いろいろなことがあっていまの人生になっていると思いがちですが、そうではありません。まさにあなたの心が招いたもの、あなたの思いが、現在のあなたをつくっているのです。
そういう意味では、どのような思いを心に抱くのかが一番大事です。
こうした思いについて、思い出すことがあります。京セラを創業して、まだ間もないころだったと思います。どうすれば経営がうまくいくのかわからなかった私は、松下幸之助さんが出されていた小冊子『PHP』を買って読んでいました。従業員と輪読もし、経営の何たるかを少しでもかじろうと思っていたわけです。
ちょうどそのころ、幸之助さんの講演会がありました。ぜひともお話を聞きたいと思い、仕事の合間を縫って駆けつけたのですが、座る席がなかったので一番後ろで立って話を聞きました。
幸之助さんは「ダム式経営」のお話をされました。「雨が降ったとき、ダムに水を貯めて洪水を防ぎ、日照りのときには放水して渇水を防ぐ。経営も同じで、景気のよいときに利益が出たら、それを蓄積して、景気の悪いときに備える。そんなダムのような余裕のある経営をしなければならない」といった内容のお話でした。
講演が終わってから、お年を召した方が質問されました。
「幸之助さんのお話は素晴らしいと思います。しかし、余裕のあるダム式経営をすべきだとおっしゃいましたが、私には余裕がないのです。余裕のある経営をするには、どうすればよいのでしょうか。具体的に教えてくれなければ、われわれには何の参考にもなりません」
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