京セラ創業者の稲盛和夫氏が自身の言葉で「経営12カ条」を解説する本連載。第2条が示すのは、経営者が立てる「目標」の大事さだ。組織の力を発揮するために、目標をどのように立て、どう遂行すればいいのか。

(写真=PIXTA)
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 思い返せば私自身、京セラをファインセラミックスの部品メーカーとして創業したものの、いまだ零細企業で先行きなどまったく見通せなかったころから、ビジョンや目標を高く掲げ、夢を語り続けてきました。

 「われわれのファインセラミックスは日本、いや世界のエレクトロニクス産業が大きく発展していくために不可欠なものになるだろう。われわれの製品を世界中に供給していこうではないか。

 いまはちっぽけな町工場でしかないが、この会社をまずは町内一番、つまり原町で一番の会社にしよう。原町一になったら中京区一を目指そう。中京区一になったら京都一を目指そう。京都一になったら日本一を目指そう。日本一になったら世界一を目指そう」

 まだ間借りの社屋で、従業員はわずか数十人、売上も年間1億円に満たない零細企業のときから私は、「日本一、世界一の企業になっていこう!」と気宇壮大(きうそうだい)なビジョンをことあるごとに従業員たちに話していたのです。

 しかし、実際には、最寄りの市電の駅から京セラに来るまでのわずかな距離に、京都機械工具というスパナやレンチなどの車載工具のメーカーがありました。自動車産業の勃興に呼応して当時は活況を呈していた会社です。

 それに対して京セラは、木造の倉庫を借りて何とか操業を始めたという、できたばかりの零細企業です。ですから「町内で一番になろう」と言っても、従業員たちは「会社に来るまでに前を通る、あの機械工具の会社より大きくなるはずがない」という顔をして聞いていました。

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