
AI(人工知能)やアルゴリズムの存在感が高まる中、経済学の知見はどう役立つのか。経済学のビジネス活用を推進するエコノミクスデザインの今井誠氏をガイド役に、旬の経済学者2人が議論を展開した。(7月19日開催の日経ビジネスLIVEを再構成した)
今井誠・エコノミクスデザイン代表取締役(以下、今井氏):今回のテーマは「経済学はビジネスに役立つか?」です。お2人は具体的にどんなビジネスを手掛けていますか。
成田悠輔・米イェール大学助教授(以下、成田氏):興味があるのは、まだ見ぬ世界を、データやアルゴリズムなどのデジタル技術を使って思い描くこと。例えば政策やビジネスに、新しい制度とか仕組みを入れた場合に何が起きるのかを予測し、ゼロベースで一番良さそうなものを考えます。
オンラインショップでの価格決定、コンテンツ・広告配信のアルゴリズムを決めるようなビジネス問題はもちろん、どの病院がコロナ病床確保に関する補助をどれだけ受け取るのかというような政策問題も対象です。社会的な意思決定・資源配分のためのアルゴリズムのデザインや評価を研究し、事業にもしています。

安田洋祐・大阪大学大学院経済学研究科教授(以下、安田氏):(安田氏が今井氏らと立ち上げた)エコノミクスデザインは、オンライン教育サービス「The Night School」と、企業向けコンサルティングが2本柱です。無駄な広告を特定したり、ESG(環境・社会・企業統治)のコスパを測定したりと、テーマは様々です。
経済理論に基づくアイデアも、実はすぐ企業のサービスに使えます。方向性を決める際に経済学の視点でフレームワークを提案すると社内調整が進みやすくなる場合があります。
具体例として、商品やサービスのレーティングを手掛けるマイベスト(東京・中央)からコンサルティングを受注し、経済学に基づく新しい評価方法を提案しました。「多数の意見を集約して、集団での意思決定や評価を行う問題」を分析する「社会選択理論」という経済学の応用です。
一見すると投票問題や政治問題の解決に特化した理論のようですが、マイベストが手掛けるビジネスのように、「商品がたくさんある中で、多くのユーザーの好みを何らかの形で反映させてスコア化する」こととも非常に相性がいいのです。
他にも、入札やマッチングの制度設計にも理論的な経済学の知見を活用できます。これらの分野は、「市場を創る」という側面を強調して、近年では「マーケットデザイン」とも呼ばれています。
米イェール大学助教授

大阪大学大学院 経済学研究科教授

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