失敗したり、思い通りにいかなかったりしたとき、どうすれば気持ちを上向きにできるだろう。実は、「背筋を伸ばす」「温かいカップを持つ」ことで気持ちまで変わる「身体化された認知」という研究があるという。公立諏訪東京理科大学工学部教授で脳科学者の篠原菊紀さんに、「体と心のつながり」について聞いた。
仕事などで失敗したときなど、どんどん気持ちが悲観的になってしまったりします。そんなとき、たわいのないことでも笑えたりすると、心が晴れることもあります。今回は、動作や行動などがどのように脳、そして心に影響を与えるのかを教えてください。
篠原さん:私は以前、「生きがいを持って富士山に登ると末期がんの患者さんの余命が延びる」という研究に関わったことがあります。目標を持つ、という脳や心からのアプローチによって体は影響を受ける。脳と体は互いにつながりあっているのです。
例えば「笑う」ときに脳ではどのような反応が起こるのでしょう。
篠原さん:脳の神経伝達物質の話をしましょう。「笑い顔」をするだけで、快感物質であるドーパミンの分泌が高まることが分かっています。ドーパミン分泌により海馬では記憶効率が高まり、運動野で反応が起こると運動スキルや仕事の手順を覚えるといったスキルの向上が見られます。ドーパミンやノルアドレナリンは興奮系のホルモンです。このようないわば“イケイケ型”の脳内物質が増すと、次にそれを軽くなだめるように、セロトニンが出やすくなります。セロトニンは精神を安定させる“癒やし系”の神経伝達物質です。このように、ドーパミンの後には必ずといっていいほど、セロトニン分泌が高まります。いっぽう、愛着ホルモンとして話題のオキシトシンは、ひとりで笑う、喜ぶというよりも周囲と一緒に喜ぶときに分泌する“絆のホルモン”といえます。
うつの傾向が出てくると表情がなくなってきます。脳の状態と表情筋につながりがあるのでしょうか。
篠原さん:意欲が高まるときに活性化する、やる気の中核といわれる脳の「線条体」は、顔の筋肉のコントロールや運動のコントロールもしています。元気がなくなると、線条体に何らかの不具合が起こり、表情筋の動きも低下するのかもしれません。
温かいもので心も温かく?
「笑う」以外で、体を動かすことと脳の働き、気持ちの表れ方などについて研究は行われているのですか。
篠原さん:人の認知には身体感覚が関わっている、という「身体化された認知(embodied cognition)」という研究分野が近年注目されています。
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