米国で経営学修士号を取得し、外資系コンサルティング会社を経て家業のタクシー会社に入社。34歳の若さで社長に就任した後、華やかな経歴とはほど遠いような泥臭い挑戦も繰り返してきた。コロナ禍では、その川鍋氏をもってしても「倒産」の文字が頭に浮かぶほどの衝撃があった。
![川鍋 一朗[かわなべ・いちろう]氏](https://cdn-business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00157/030100001/p1.jpg?__scale=w:350,h:525&_sh=0450c708a0)
私が会長を務める日本交通(東京・千代田)は創業90年を超えるタクシー・ハイヤー会社です。ハイヤー約1600台、タクシー約7000台を走らせており、1万人が働いています。連結ベースの売上高は約808億円(2020年度、業務提携会社を含む)で、同業では日本最大となっています。
新型コロナウイルスの感染拡大でタクシー業界は大きな影響を受けました。20年4月に政府の緊急事態宣言が東京など7都府県を対象に出されると、日本交通も売上高がどんどん減少。これまで経験したことのない事態に直面しました。
実は新型コロナのニュースが最初に聞こえてきたころ、私はほとんど気に留めませんでした。自社のビジネスに強く影響を与えることになるとは想像もしていなかった。
ちょうど、日本交通の配車アプリ事業「JapanTaxi」を、最大のライバルだったディー・エヌ・エー(DeNA)の同事業と統合すると発表したばかり(20年2月4日)。そのことが頭の中の9割以上を占めていました。
その後、国内でも感染者が見つかって事態が大きく変わったのはご存じの通りです。統合によって対等出資の「モビリティテクノロジーズ」が発足したのが4月1日。7都府県を対象にした最初の緊急事態宣言が出されたのが4月7日でしたから、コロナ禍の初期対応と事業統合が重なり、相当あたふたする日々でした。
緊急事態宣言には「人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減する」と盛り込まれ、人々の外出自粛によってタクシーの利用者はほとんどいなくなりました。売上高は一気に7割減に落ち込みました。「タクシーの営業所を休もう」。私はこう決断しましたが、実は簡単なことではありませんでした。
当社は創業以来、完全に休んだことが一度もありません。24時間365日動き続けてきた会社で、休むと考えたことすらなかったので、車庫にはシャッターが付いていません。「そもそもうちが営業を止めるとはどういうことか」を考えるところから始めるしかありませんでした。
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