「そんならなおさら……もう御歳57なんですから、そろそろお仕事から足を洗われても罰は当たらんとじゃなかとでしょうか」
清子はいつのまにか、しゃべり方や物腰まで男勝りな母に似てきた気がする。
「清子、お茶を入れてきてちょうだい」
富樹子があわてて娘を台所に追いやった。今度は得能の血圧が上がってはたまらない。
数日後、病み上がりで出勤した得能は局長室に次席の一川研三を呼んだ。
「お身体の具合はもうよろしいのでしょうか」
「ああ、心配するな」
「栄養をよく摂られてご無理をなさらぬよう。滋養には肉や卵が良いと聞きます」
(こいつも清子と同じことを言いおって)
一川の心配そうな表情を見ると、急に老け込んだ気がした。たしかに体力にもまして気力が続かなくなっている。
この記事は会員登録で続きをご覧いただけます
残り3843文字 / 全文5037文字
-
【春割】日経電子版セット2カ月無料
今すぐ会員登録(無料・有料) -
会員の方はこちら
ログイン
【春割/2カ月無料】お申し込みで
人気コラム、特集記事…すべて読み放題
ウェビナー・音声コンテンツを視聴可能
バックナンバー11年分が読み放題
この記事はシリーズ「小説 国産紙幣誕生」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?