念願の国産紙幣第一号「水兵札」は世に送り出した。得能の目下最大の悩みは、紙幣用紙である。量産化の見込みがまったくつかないのだ。
明治11年も御用納めが近づいた年の瀬、得能は機械部長の千田耘蔵(うんぞう)から、特命についての報告を受けていた。
「正直申しまして非常に難航しております。この機械では……」
職人気質で上司にも遠慮がない。そこに目を付けて部長に抜擢した千田だったが、前任者と変わらぬ説明に腹が立ってくる。
「始めてからもう半年だぞ。まだ仕組みがわからんのか」
「いえ、仕組みはわかっています。原料の違いによっても機械との相性は異なるのです。まだまだ微妙な調整が必要かと……」
「どういう調整が必要なのだ。そこを早く言え」
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