明治初期、新政府の命を受けて国立印刷局の前身、大蔵省紙幣寮で国産紙幣製造を実現した初代長官・得能良介と、紙幣国産化のため新政府に招かれたお雇い外国人のイタリア人、エドアルド・キヨッソーネの2人を主人公に、2024年新紙幣まで受け継がれる肖像画と「すかし」による偽造防止技術など、日本の紙幣製造の骨格がつくり上げられた過程を描く歴史小説。(画=永島壮矢)
シリーズ
小説 国産紙幣誕生

32回
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エドアルド・キヨッソーネの遺言
念願の大仕事である明治天皇の肖像画を描くこととなったキヨッソーネは、宮内大臣の見守る中、御簾の隙間から天皇をスケッチし、それを元に「御正装姿」を完成させる。その後も日本銀行券の製作などで休みなく働き続けた彼にも、ついに印…
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毒を食らわば皿まで
紙幣の国産化に晩年をささげた印刷局長・得能良介は「成すべきことは成した」と言い残し永眠した。その4年後、明治天皇の肖像画を描いてほしいと宮内省から依頼されたキヨッソーネは、光栄に思いながらも「紙幣の肖像を拒絶したのになぜ…
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生と死
同郷の後輩である大蔵卿・松方正義への直談判が実り、得能の宿願だった工場積立金制度がついに認められた。大勢の部下を率いて宴会を催した得能は大きな達成感に包まれる。しかし病による衰弱は日に日に進み、最期の時は確実に近づいてい…
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「これが、最後の大仕事になるかもしれぬ」
結核に体を蝕まれながらも、得能は印刷局を独立自営の事業体にするため、工場積立金制度の上申を続けた。拒絶してきた大蔵本省だったが、明治14年の政変で大蔵卿が郷里の後輩、松方正義に交代する。一縷の望みを抱き、得能は松方との面…
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大蔵省という役所の論理
壱円札に続いて、用紙に初めて透かしを入れた政府紙幣五円札が完成した。一方、得能が大蔵本省に何度も上申している、工場積立金制度を要とする改革案は一向に認められる気配がない。いたずらに時が進み、病は徐々に得能の体を蝕んでいた…
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男と女として、惹かれている
政府が緊縮財政を打ち出す中、得能良介は印刷局を独立自営できる事業体にしようと、工場積立金制度を上申する。柔軟な設備投資ができる資金を確保するための施策だが、前例のない改革を快く思わない大蔵本省の勢力から強い抵抗を受けてい…
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身を切る改革案、一顧だにされず
苦労の末に抄紙機の自作に成功したのもつかの間、印刷局の工場が民間払下げの対象になるかもしれないという新たな問題が持ち上がった。何としてもそれを防ごうと、得能良介は印刷局を独立自営の事業体とするための改革を目論む。
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印刷局を襲う、インフレと行財政整理の波
新たな政府紙幣の企画は固まったが、用紙は手漉き頼みで、量産化のメドが立たない。業を煮やした得能は、明治天皇の行幸までに国産抄紙機を完成させよと部下に命じる。無理を重ねて作り上げたものの、満足に動かない状態のまま行幸当日を…
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「できない理由ばかり考えるな」
ひとりで抱えてきたものを秀子に聞いてもらうことで、キヨッソーネは安心するのだろう。顔色はまだよくないが、ぎこちない笑みを浮かべた。
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あなたの、人となりを描きました
政府紙幣に描く初めての肖像画・神功皇后のイメージをつかめないでいたキヨッソーネはある日、抄紙工場で紙漉き職人の加藤秀子と出逢う。求める「日本女性の美」を秀子の中に見出したキヨッソーネは必死になって口説き、モデルになること…
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キヨッソーネ、救いの女神と出逢う
新たな政府紙幣に初めて採用する肖像画は、神功皇后に決まった。高貴で品格があり、かつ勇敢な日本女性のイメージを求めて、キヨッソーネは苦悩する。女工をデッサンするなど試行錯誤を続けていたある日、訪ねた抄紙工場に思いもよらない…
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女子職員を神功皇后のモデルに
西南戦争で西郷隆盛が自決した翌年、大久保利通は暴漢の襲撃にたおれた。郷里の盟友2人の相次ぐ死に打ちひしがれる間もなく、得能良介は新たな政府紙幣づくりに着手する。肖像を描く神功皇后とはどのような人物なのか。キヨッソーネの探…
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わしも、大久保を死に追いやったのか
国産新紙幣の仕様を決めた紙幣局長・得能良介だが、安堵する間もなく西南戦争が勃発。軍費のための紙幣増産に忙殺される中、同郷の盟友・西郷隆盛の自決を知る。明治天皇の新工場行幸という栄誉の中でも、西郷に思いをつのらせずにはいら…
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明治天皇、紙幣局工場「朝陽閣」に行幸
西南戦争の軍費を賄うため紙幣の増産に追われる中、国産第一号となる国立銀行紙幣、通称「水兵札」が完成した。予想を超える仕上がりに一同が感嘆する中、西郷隆盛自決の報が入る。郷里の盟友の死に、得能良介は周囲の目もはばからず慟哭…
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ついに国産紙幣第一号 「水兵札」が完成
国産第一号となる国立銀行紙幣と、肖像画入り政府紙幣の仕様が固まった。内務卿・大久保利通に報告し、得能が安堵したのもつかの間、鹿児島で西郷隆盛が挙兵する。西南戦争にかかる膨大な軍費を賄うために、紙幣の緊急増産が始まった。
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ついに薩摩軍挙兵 戦費調達のため紙幣の緊急増産へ
明治10年1月、紙幣寮は大蔵省紙幣局と改称し、純国産の政府紙幣づくりに着手した。世界の先端を行く肖像画入りの紙幣が企画されたが、候補は神功皇后。「なぜ国家元首たる天皇を描けないのか」――。キヨッソーネは初めて、得能良介に…
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初めての肖像入り紙幣、なぜ明治天皇を描けないのか
娘の清子とその夫の西郷従道、妻の富樹子を完成間近の紙幣寮印刷工場に案内した紙幣頭・得能良介は、対立する2人の盟友、大久保と西郷につかの間、思いをめぐらせた。朝陽閣と称される新工場が稼働し、いよいよ新政府紙幣づくりが本格始…
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東京・大手町に新工場“朝陽閣”完成
従来の方針を覆し、大蔵省紙幣寮は自らの手で新しい紙幣の用紙を抄造することを決め、東京・王子に抄紙工場を完成させた。キヨッソーネらの指導で印刷技術も向上している。紙幣頭・得能良介は満を持して、新しい政府紙幣の発行を太政官正…
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「組織には熱血漢も切れ者も必要」 大隈重信の深慮
民間から買い上げる方針を180度覆し、政府直営の抄紙工場を東京・王子に建てることを決めた紙幣頭の得能良介。お雇い外国人、キヨッソーネの熱心な技術指導で職工たちの技術も向上しつつある。紙幣国産化に向けた環境がついに整った。
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「背に腹は代えられん」 渋沢栄一の苦悩
「銀行券を発行する際の条件である金(正貨)との兌換(だかん)を、政府紙幣との兌換でかまわないことにしていただきたいのです」渋沢が求めてきたのは、予想だにしない国立銀行条例の改正だった。
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