「米国を再び偉大に」と信じ続ける層と、エリート層の分断が深くなる一方の米国社会。多くの知識層が見過ごしてきた深刻な事実を、ノーベル賞経済学者アンガス・ディートン教授が指摘する。

アンガス・ディートン[Angus Deaton]
米プリンストン大学公共国際問題大学院名誉教授
2015年にノーベル経済学賞を受賞。米南カリフォルニア大学経済学部学長教授。専門は貧困、不平等、医療、経済開発。経済学者の妻、アン・ケース氏との共著に『絶望死のアメリカ』(みすず書房、2021年)がある。

 現在、米国の論壇では、民主主義がトランプ前大統領のスローガン「MAGA(マガ)=Make America Great Again(米国を再び偉大に)」の狂信者、選挙否定論者、そして都合の悪い結果は無視すると脅す共和党員(彼らは選挙および政治の世論調査の監視に、忠誠心の強い者を雇う)に脅かされているとの読み筋が支配的である。

 だがこのストーリーは、真実のほんの一断面でしかない。はるかに長い間語られ続けてきた別のストーリーがあり、そこには別の悪人たちが登場する。それは、過去50年以上にわたり、大学を卒業していない米国人の生活が物質的・健康的・社会的な成果の範囲において悪化してきたというものだ。

 米国の成人人口の3分の2は4年制大学を卒業していないが、政治は彼らのニーズに応えるどころか、企業の利益や高学歴の米国人を優先し、むしろ害になる政策を頻繁に打ち出した。大学を卒業していない米国人から「盗まれた」のは選挙ではなく政治の意思決定に参加する権利、つまり民主主義が保証するはずの権利だ。

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