2022年のノーベル経済学賞はベン・バーナンキ元米連邦準備理事会(FRB)議長、ダグラス・ダイヤモンド米シカゴ大学教授、フィリップ・ディビッグ米セントルイス・ワシントン大学教授に決まった。実績ある2人の経済学者が解説する。


ベン・バーナンキ氏(元米連邦準備理事会議長)
実証と実行が後の理論を先導

青木 浩介[Kosuke Aoki]
東京大学大学院 経済学研究科教授
1992年神戸大学経済学部卒業、94年同大学院経済学研究科修士課程修了。2000年米プリンストン大学で経済学の博士号(Ph.D.)取得。イングランド銀行、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、11年東京大学大学院経済学研究科准教授などを経て現職。専門はマクロ経済学。01年にヨーロッパ経済学会のYoung Economist Awardを受賞。14年、日本経済学会の中原賞を受賞。

 2022年のノーベル経済学賞は「銀行と金融危機に関する研究」に対してベン・バーナンキ、ダグラス・ダイヤモンド、フィリップ・ディビッグの3氏に授与された。ダイヤモンド氏とディビッグ氏は銀行に関する標準理論モデル「ダイヤモンド・ディビッグ・モデル」を構築したことが評価された。銀行が資金の「満期変換機能」を果たしていることをこのモデルは理論的に示している。

 満期変換機能とは、銀行が預金者からいつでも引き出せる「要求払い預金」を集め、それを使って企業の長期投資に資金を融通することをいう。またその機能を果たしているが故に銀行は不安定な存在で、取り付け騒ぎのリスクにさらされることを示した。一方、バーナンキ氏は、20世紀初頭の世界大恐慌における銀行危機の役割を解明したことが評価された。

 大恐慌が歴史上まれに見るほど深刻な不況になったのは、多くの銀行が倒産したからだと実証的に示した。本稿はバーナンキ氏に関するものである。ダイヤモンドとディビッグ両氏に関しては、4ページからの植田健一教授の寄稿を参照いただきたい。

 バーナンキ氏は06年から14年までは米連邦準備理事会(FRB)議長を務めた。08年に発生した世界金融危機時に米国金融政策のかじ取りをしたことを、多くの読者がご存じだろう。だが本稿では、バーナンキ氏の政策担当者としての側面ではなく、授賞理由となった学術研究について解説する。最後に、バーナンキ氏が米プリンストン大学教授だったときに、筆者は大学院生として講義を受け、博士論文の審査委員も引き受けていただいた(指導教員は、現在は米コロンビア大学のマイケル・ウッドフォード教授)。その時のエピソードも紹介したい。

ノーベル経済学賞受賞の発表を受け、会見するベン・バーナンキ氏(写真=ZUMA Press/アフロ)
ノーベル経済学賞受賞の発表を受け、会見するベン・バーナンキ氏(写真=ZUMA Press/アフロ)

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