この記事は日経ビジネス電子版に『バブルと低金利の関係を解き明かす「バブルの経済理論」』(11月5日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』11月22日号に掲載するものです。
利子率が成長率を下回るとき、バブルは必然となる──。櫻川昌哉氏は著書『バブルの経済理論』で、バブル経済の本質を捉える「低金利の経済学」を提示した。櫻川氏は言う。「バブルの本質は、贈与である」。
慶応義塾大学経済学部教授

「バブルや金融危機を正面に見据えない経済学は、果たして真の経済の姿を映しているのであろうか」――。著書『バブルの経済理論』(日本経済新聞出版)が2021年度の日経・経済図書文化賞に選ばれた櫻川昌哉氏は、現代マクロ経済学について、そう喝破する。
櫻川氏は、経済学者として日本のバブルと崩壊後の停滞をどう理解すべきか悩む中、08年のリーマン危機をきっかけに「バブルは普遍性を備えた現象である」と確信した。その本質を捉えたのが「低金利の経済学」の考え方である。
日米ともバブル期は、市場利子率が経済成長率よりも低い状況が一定期間続いた。そこで起こったのは、「財」と「財」の交換ではなく「財」と「霞(かすみ)」の交換であり、株や不動産といったバブル資産(霞)を買う側から売る側への、一方的な贈与であった。欧米でも低金利を前提とした研究が近年、盛んだが、櫻川氏の提唱する「バブルの経済理論」とは何か。本稿では、櫻川氏による解説寄稿を掲載する。
日本を襲った土地バブルと米国で起きた住宅バブルについて調べてみると、面白いことに気がつく。バブル期には、利子率が低いのである。それだけなら誰でも知っている話である。少し詳しくデータを見ると、図1・2で示されるように、いずれの利子率も経済成長率よりも低い。実は、この事実、経済学者にとってはかなり重い。
我々が学んできた経済学では、市場利子率が経済成長率よりも2~3%高いことになっている。利子率が成長率よりも低い事態がある一定期間続くことはあり得ない。
この事実は、仮に「低金利の経済学」というものがあるなら、どのように考えたらいいかというところに筆者を導いた。そして、リーマン危機以降に我々の前に現れたのは、市場利子率は経済成長率よりも低いことが当たり前となりつつある世界である。21年現在、米国、日本、中国、ドイツなど主要国では市場利子率は経済成長率よりも低い。確信したのは、低金利に真面目に向き合う必要があるという直感である。これが、筆者が『バブルの経済理論』を執筆した動機である。
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