この記事は日経ビジネス電子版に『最低賃金論議に一石、ノーベル経済学賞カード教授の主張とは』(10月25日)として配信した記事に加筆・再編集して雑誌『日経ビジネス』11月15日号に掲載するものです。
2021年のノーベル経済学賞は、デービッド・カード、ヨシュア・アングリスト、グイド・インベンスの3氏に決まった。最低賃金と雇用の関係を実証的に解き明かした貢献だ。だが誤解があると、北海道大学の安部由起子教授はいう。
北海道大学大学院経済学研究院教授

2021年のノーベル経済学賞は、米カリフォルニア大学バークレー校のデービッド・カード教授、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のヨシュア・アングリスト教授、そして米スタンフォード大学のグイド・インベンス教授の3氏に贈ると決まった。受賞者のうちカード教授は、賃金と雇用の関係を実証的に解き明かし、労働経済学の進展に貢献したことで知られ、最低賃金引き上げなどの論議にも一石を投じてきた。
博士課程の学生時代、カード教授に指導を受けた安部由起子・北海道大学大学院経済学研究院教授の寄稿を掲載する。
カード教授のノーベル経済学賞の受賞が決まったというニュースは、筆者にとって大変、うれしいものであった。
カード教授は労働経済学分野に多大なる貢献をされてきた。その研究が過去30年くらいの間、労働経済学における多くの実証研究の基礎となったことは間違いないと思う。
カード教授には、職業訓練や貧困対策の効果、労働組合の効果、労働時間と労働所得の変化の関係、賃金構造と賃金格差、企業での賃金決定……などのトピックで、統計的な手法を駆使した研究が多数ある。筆者が米プリンストン大学で大学院生として学んでいた1989~94年の時期に、カード教授は同大学の教授として研究に教育にと、活躍しておられた。
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