この記事は日経ビジネス電子版に『【動画配信】「AIが奪う仕事、奪えない仕事」大家のオズボーン教授に聞く(上)』(10月28日)、「AIに勝てる「人間らしさ」を磨け 大家のオズボーン教授(下)」(10月29日)として配信した2本の記事を再編集して、雑誌『日経ビジネス』11月8日号に掲載するものです。

AIが雇用を奪う未来について研究を続けている、マイケル・オズボーン英オックスフォード大学教授。10月5日に開催された日経ビジネスLIVEで、AIベンチャー・エクサウィザーズの石山洸社長と、人の強みなどについて議論した。

石山洸[Ko Ishiyama]
エクサウィザーズ社長
東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻修士課程修了。2006年4月リクルートに入社。同社のデジタル化を推進した後、15年4月AI研究所を設立し、初代所長に就任。17年10月現職就任。19年4月より、東京大学未来ビジョン研究センター客員准教授を兼任。
マイケル・オズボーン[Michael Osborne]
英オックスフォード大学工学部機械学習教授
2002年から05年にかけて西オーストラリア大学で数学、物理学、機械工学で学士号を取得し卒業。10年、英オックスフォード大学で機械学習の博士号を取得(Ph.D.)。同大学でポスドク、リサーチフェローなどを経て12年准教授、19年から現職。日本のAI(人工知能)ベンチャー、エクサウィザーズの顧問を務める。

 2021年10月5~7日に開催された日経ビジネスLIVE「The Future of Management 2030:資本主義の再構築とイノベーション再興」。5日午後にはAI(人工知能)と雇用に関する共著論文などで「日本の雇用の49%が自動化される」などと発表し影響を与えた英オックスフォード大学工学部のマイケル・オズボーン教授が登壇した。同教授が顧問を務めるAIベンチャー・エクサウィザーズの石山洸社長を交えて、規制がAIに及ぼす影響やAIが教育に及ぼす影響などを議論した。モデレーターは島津翔日経クロステック副編集長。

島津翔(日経クロステック副編集長、以下島津):AIなど技術革新により、人間が経済や労働で果たす役割は変化しつつあります。英オックスフォード大学のマイケル・オズボーン教授、AIベンチャー・エクサウィザーズの石山洸社長とともに、AIの社会実装について考えます。まず視聴者にクイズです。第1問です。

 「自動車や航空機の設計、開発、製造に欠かせない『鍛造技術者』が将来AIなどのテクノロジーに自動化される確率は何%でしょうか」

 (A)0~24%(B)25~49%(C)50~74%(D)75~100%

 視聴者の方たちの回答で一番多かったのはDの「75~100%」ですね。37%の方が選んでいます。オズボーン教授に答えを教えていただきます。

マイケル・オズボーン英オックスフォード大学工学部教授(以下、オズボーン):正解はDです。99%よりも高い確率で自動化されると予測しています。鍛造技術者の仕事の中心である機械の点検やメンテナンスは、先進的なAIやセンサー技術、ロボットによって代替可能です。

内科医はAIで代替可能か

島津:既にロボットが導入された場も多いですが、さらに代替が進むという予測です。続いて第2問です。

 「『内科医』の仕事が将来AIなどに自動化される確率は何%でしょうか」

 (A)0~24%(B)25~49%(C)50~74%(D)75~100%

 Cの「50~74%」、Dの「75~100%」を選んだ方が多いです。

オズボーン:答えはAです。自動化される確率はわずか0.6%と予測しています。医師の仕事は人との交流がベースにあり、患者の気持ちを理解し、心のこもったケアをすることが必要です。患者は人的交流の対価としてお金を払います。人間の医師の雇用はなくならないと考えます。

島津:自動化される仕事、されない仕事を分けるものは何でしょう。

オズボーン:自動化される可能性が低い仕事のカテゴリーは2つあります。一つは「ソーシャルインリジェンス(社会的知性)」です。例えば医師のように、人的交流や相手の気持ちの理解が必要な仕事です。もう一つは「創造性」です。イノベーションは人間しか生み出せません。ただ、先ほどの確率は、あくまでも技術的な可能性を示すもので、実際に自動化されるか否かは別問題です。どんな社会をつくるのかは我々次第です。自動化できる仕事であっても、自動化させないという判断もあり得ます。

島津:ここからオズボーン教授が「AIの社会実装がもたらす雇用と資本主義の未来」のテーマで講義します。

オズボーン:AIという私の研究分野に基づき、雇用の未来をお話しします。私はAIの発展が未来の富とウェルビーイングの基盤となり、人類繁栄の道と確信します。一方、雇用の一部がAIに代替されるのも事実です。パンデミック(世界的大流行)でこの傾向が顕著になりました。製造業、流通業、サービス業など人との接触による感染リスクが高い場面で、人の仕事を機械化する動きが進みました。また景気後退で人件費削減のため自動化を導入しました。アルゴリズムは体系化された環境下で力を発揮します。典型的な領域の一つが販売やサービスです。米アマゾン・ドット・コムは業務を自動化し、販売する商品の3分の1程度は自動的な「おすすめ」によると聞きます。

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