新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)により、リモートワークなどの新たな働き方が注目された。様々な組織が、自らのアイデンティティーの一部として、新たな働き方を探求している。

リンダ・グラットン[Lynda Gratton]
英ロンドン・ビジネス・スクール教授
英リバプール大学で心理学の博士号(Ph.D.)を取得。1989年から英ロンドンビジネススクールで教壇に立つ。講座「フューチャー・オブ・ワーク」は高い評価を得ている。単著『ワーク・シフト――孤独と貧困から自由になる働き方の未来図<2025>』(プレジデント社)や共著『LIFE SHIFT――100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)などがベストセラー。

 新型コロナウイルスがまん延して以来、私たちは職場のスキルや常識、習慣のあり方を拡張してきた。だが新たな働き方を見つける興奮は風化し、深い恐怖が頭をもたげはじめている。ある大手食品会社の幹部は「工場の従業員が以前通りのシフトで働くのに、オフィスの従業員が週3日在宅勤務の実験をするのは公平なのか」と筆者に問いかけた。

 在宅勤務と出社を組み合わせたハイブリッドワークは、従業員の生産性、とりわけ協調性や創造性を低下させるとの懸念が高まっている。ある経営者は「従来のオフィスのような仕切りのない空間は集中を妨げることもあったが、部署を超えた交流を生んだのも事実」と語る。

 経営者は「大退職時代」、従業員の離職率に敏感にならざるを得ない。どの施策が人材を引きつけ、維持できるかが不透明な中、懸念は高まるばかりだ。しかも経営者たちは競合他社がどの施策に取り組みそうかにも大きな不安を感じている。

 恐怖心は負の連鎖をもたらす。失敗を恐れるあまり、従業員の一体感や帰属意識、アイデンティティーの問題につまずく経営者もいる。強い気概を持ち、実験を恐れず進むのではなく慣れ親しんだ考えに逆行し、従業員への共感を失う。人は失敗を恐れるとき既知の世界に引きこもる。

 しかし不安に立ち向かうことに成功したリーダーもいる。筆者は新型コロナウイルスの感染が拡大して以来、30社以上の経営陣と密接に連携してきた。不確実性に立ち向かうには、課題を単に「ゼロイチ」で判断(例えばオフィスか自宅、フルタイムかパートタイムなど)するのでなく、再設計と変化のプロセスとして捉える必要がある。そうすれば従業員に正しい価値を届ける複雑性を正しく認識し、公正で包括的な変化を受け入れる文化を創ることができる。

次ページ 働き方再構築のプロセス