政治経済のグローバリゼーションが揺らいでいる。新型コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻で世界が向かう先とは。国際政治経済学者である、米ハーバード大学ケネディ行政大学院の、ダニ・ロドリック教授に聞いた。

ダニ・ロドリック[Dani Rodrik]
米ハーバード大学 ケネディ行政大学院教授
1957年、トルコ・イスタンブール生まれ。米ハーバード大学を卒業後、米プリンストン大学大学院で公共問題の修士課程(MPA、Master in Public Affairs)、博士課程修了、博士号(Ph.D.)を取得。米プリンストン高等研究所教授などを経て現職。専門は開発経済学、国際経済学、政治経済学。『グローバリゼーション・パラドクス』(翻訳=柴山桂太・大川良文、白水社)、『エコノミクス・ルール 憂鬱な科学の功罪』(翻訳=柴山桂太・大川良文、白水社)、『格差と闘え:政府の役割を再検討する』(オリヴィエ・ブランシャール氏と共同編集、慶応義塾大学出版会、2022年)など著書多数。

グローバリゼーションが衰退していくとの見方があります。

 「グローバリゼーション」は、衰退していないとしても、減速している側面はあると思います。例えば世界金融危機以前、世界の貿易額はほぼ一貫して世界全体のGDP(国内総生産)、すなわちグローバルGDPの成長率より速く増加する傾向にあり、貿易のグローバルGDPにおける比率は時間とともに上昇傾向にあったことが一つの指標でしょう。

 しかし、2008年秋の世界金融危機以降はそうではなくなりました。一般的に、世界の貿易はグローバルGDP成長率に辛うじて追いつく程度で、時に減速しています。対外貿易への依存度を減らす主要国もあります。中国はGDPにおける貿易の割合が大幅に減少し、より内向きの国になっています。インドも同様です。グローバル化の鈍化を示唆する定量的な指標があります。

グローバリゼーションの転機

 私は、単に従来の意味でのグローバリゼーションの拡大・縮小を論じるのではなく、グローバリゼーションの本質、一体どのようなグローバリゼーションであるべきなのかについて、もう少し違った角度から考えたいと思います。グローバリゼーションと一言で言ってもさまざまな種類があり、ありようが大きく異なるからです。例えば、国際資本移動や国際貿易、国際通貨基金(IMF)、経済協力開発機構(OECD)、世界貿易機関(WTO)など経済を中心とするグローバリゼーションはその一つです。通常私たちが思い浮かべるグローバリゼーションは、これです。

この種のグローバリゼーションを、ロドリック教授は「ハイパーグローバリゼーション」(注1)と定義しています。そして、ハイパーグローバリゼーションは終焉(しゅうえん)した、と。

注1=1990年代後半から2000年代初頭のグローバル化。関税や規制で生じる取引コストの削減を図った。

 通貨や貿易といった(経済に関する)ものでなく、気候変動に関する協定や公衆衛生に関する協定を軸にした、別のグローバリゼーションもあり得るということです。何をグローバリゼーションと見なすかについて、我々の「マインドセット」に重要な変化が起こったのです。政策立案者はますます国内経済を優先させ、グローバル経済をどのように国内目標の達成に利用するか考えるべきだと主張するようになっています。しかしそうではなく、世界共通の要請に対してどのように国内経済を適応させるかを考えるべきです。