国内市場が縮小する中、新しい価値の創造がどの企業の経営者にとっても急務である。知識をどう洞察につなげるか、米コーネル大学発の手法に学ぶ。

松波晴人[Haruhito Matsunami]
大阪大学フォーサイト社長
1966年生まれ。米コーネル大学大学院で修士号取得の後、和歌山大学で博士号(工学)を取得。2005年、行動観察ビジネスを開始。著書に『ビジネスマンのための「行動観察」入門』(講談社現代新書)など。寄稿にダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー「行動観察×ビッグデータ特集」。近著は『ザ・ファースト・ペンギンス 新しい価値を生む方法論』(共著、講談社)。22年8月に大阪大学100%出資の子会社として、大阪大学フォーサイト(大阪府吹田市)を設立。

 「新しい価値(新サービス、新商品、新規事業)」の創造は今、どの経営者にとっても大きな課題になっている。

 少子高齢化で国内マーケットが確実に縮小する中、「両利きの経営(米スタンフォード大学経営大学院チャールズ・A・オライリー教授らによる提唱)」でいう「深化(成熟事業を深める)」には取り組めていても、「探索(新規事業を推進する)」で苦戦している企業は多い。

 一体、どうすれば、リスクを恐れず新しいことに挑戦する先駆者「ファーストペンギン」になれるのだろうか?

 本稿では、特に「新価値創造の人材育成」と「組織の仕組みづくり」について、米コーネル大学の取り組みを紹介しながら、この問いについて解説したい。

 筆者は1999~2001年に、コーネル大学大学院のデザイン環境分析学科に留学し、修士課程に学んだ。デザインといっても絵を描くわけではない。

 そこでは、「新しい価値を発想する、という意味でのデザイン」の実践的な教育が展開されていた。「デザイン思考」という言葉が、まだあまり広く知られていなかった時代の話だ。

 コーネル大学の授業では、「幼稚園児の何らかの能力が伸びるおもちゃを作れ」といった課題が出される。そして、学生には3つのことが求められる。

 ①必ず場に行って、人間の行動を観察し、1次情報を得ること。

 学生は幼稚園を訪問し、幼稚園児がどのように過ごし、どう遊んでいるかを詳細に観察する。

 ②大学の図書館に行って、学術的知見を集めること。

 その時期の幼児が、どのような能力を伸ばす必要があるのか、先行研究を調べる。

 ③「場で観察したこと」と「学術的な知見」を統合して、「新しい価値」を発想すること。

 「手先の器用さを伸ばす」ことが重要だが、手を使う機会が幼児には少ないので、「楽しく遊びながら器用さが知らないうちに伸びるおもちゃ」を発想して実現する。

次ページ 行動観察で「世界観」をつくる