この記事は日経ビジネス電子版に『プーチンの戦争:ゆがんだ経済構造の下、無謀な決断は何をもたらす?』(3月25日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』4月11日号に掲載するものです。

ウクライナ侵攻で、「ロシアを核とした大国復活の野望」に突き進むウラジーミル・プーチン大統領。だがロシア経済の実態をつぶさに見ると、その行く末に待ち受ける経済的な困難が浮き彫りになる。

(写真:Shutterstock)
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岩﨑 一郎[Ichiro Iwasaki]
一橋大学経済研究所ロシア研究センター教授
1966年愛知県名古屋市生まれ。一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得。経済学博士(2001年、一橋大学)。88年外務省入省、在ソ連(現ロシア)日本大使館書記官。2002年1月、一橋大学経済研究所講師、同准教授などを経て09年から現職。専門分野は移行経済論、経済体制論。
大野 成樹[Shigeki Ono]
旭川大学経済学部教授
1971年生まれ。95年北海道大学文学部ロシア語・ロシア文学専攻課程卒業。2001年同大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経済学)。ロシア経済省派遣専門家、日本学術振興会特別研究員、北海道大学助手、北海道大学スラブ研究センター共同研究員、旭川大学准教授などを経て、13年から現職。

 ウクライナへ軍事侵攻するというロシアのウラジーミル・プーチン大統領の決断は、世界中の人々を驚愕(きょうがく)させ、震え上がらせている。その行方は極めて不透明であり、国際社会の将来に暗い影を投げかけている。少し考えれば、この戦争は、ウクライナだけでなくロシアにとっても破滅的な帰結をもたらし得ることが容易に想像できるのに、プーチン氏はどうしてこのような蛮行に及んだのか? この小論ではその経済的背景と、いわゆる「プーチンの戦争」が近い将来にロシアと日本へ及ぼす影響について論じたい。

 2000年代のロシアは、ブラジル、インド、中国とともに新興市場大国BRICsと呼ばれ、実際にもその名に恥じない高度経済成長時代を謳歌した。実際、00~08年の国内総生産(GDP)実質成長率は、実に期間平均年7%を記録している。しかし08年9月の世界金融危機以後、ロシア経済は変調を来す。

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