この記事は日経ビジネス電子版に『「よそ者」が生むイノベーション 白内障治療を変えた黒人女性の軌跡』(3月18日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』4月4日号に掲載するものです。

人種やジェンダーといった私たちに内在する偏見はしばしば、画期的なアイデアに正当な評価を与える邪魔をする。だが、既存のシステムを新鮮な目で見つめる「よそ者」の視点こそが、画期的なイノベーションを生み出すカギだ。

ジャン=ルイ・バルスー[Jean-Louis Barsoux]
スイスのIMDビジネススクール教授
英ラフバラ大学で比較経営学の博士号を取得。共著に『ALIEN Thinking: The Unconventional Path to Breakthrough Ideas』(Public Affairs)。
シリル・ブーケ[Cyril Bouquet]
スイスのIMDビジネススクール教授
組織や経営者がイノベーション力と創造性を発揮して複雑な課題に取り組む活動を支援。最近では食品大手ネスレの脱炭素の取り組みなどにかかわった。
マイケル・ウェイド[Michael Wade]
スイスのIMDビジネススクール教授
デジタルトランスフォーメーション(DX)の専門家。デジタルツールや最先端の技術を活用してビジネスの価値を高めようとする組織の支援に携わる。

 イノベーションが人類の進歩の原動力であることは広く知られている。それは経済的成長だけでなく、科学や医療から、格差是正、持続可能性(サステナビリティー)といった様々な領域にまで、重要な改善をもたらすエンジンだ。良いアイデアは誰でも思いつくことができるため、米国の特許取得者の分布は同国の職場の人口構成に近いと思われがちだ。だが、それは間違いだ。イノベーションのリーダーシップにおいて、女性とアフリカ系米国人の2つのグループが大きく後れを取っていることを複数の研究が示している。

 この不均衡の原因はしばしば、科学や技術、工学、数学といったSTEM(理系領域の総称)と呼ばれる分野において、この2つのグループに属する人が少数であることだといわれる。しかもデータを見ると、STEMにかかわる女性やアフリカ系米国人は白人男性に比べ、特許を申請する頻度が極めて低いことが分かる。

 この2年間私たちが何かを学んだとすれば、それは感染症のパンデミック(世界的大流行)、気候変動、不安定な電力供給網、構造的な人種差別、そして「ビッグテック」と呼ばれる巨大IT(情報技術)企業のプラットフォームを介した誤情報やヘイトの拡散といった差し迫った問題を解決するため、革新的なソリューションが今すぐ必要ということだ。

 こうした問題の解決には、我々の中でも最も革新的な人材の活躍が欠かせない。だが、どんな領域でも、「過小評価グループ」に属する人々が画期的なアイデアを持っていると、実現するのは難しい。興味深いのは、こうした「よそ者グループ」に属する人のほうが、斬新な解決法を開発するために必要な「複数の要素を組み合わせる」思考を簡単だと感じることが多いということだ。

次ページ 先入観ない人ほど斬新な発想