求められる以上の仕事に取り組まない従業員を「静かな退職者」と呼ぶ。一方、筆者は対価に見合うよう努力を調節する人にネガティブなレッテルを貼ることに疑問を呈し、「調節済みの貢献者」との呼び方を提案する。

米バージニア大学ダーデン経営大学院教授

ジャネットは薬剤師である。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)のさなか、自身の健康へのリスクを顧みず、おびえてイラついている多くの顧客からの暴虐的な態度に耐え、対面環境で働いてきた。
しかし彼女がこの献身的な働きの対価として支払われた給料は、パンデミックの3年間のいずれの年もCEO(最高経営責任者)の給料の1%以下にすぎなかったのである。
「静かな退職者」とは?
アレックスは、IT(情報技術)サポーターとして働く。数年間にわたって彼は、積極的にチームの効率や文化のレベルアップを試みたが、アイデアは何度となく無視された。パンデミックが発生した時、アレックスは、オンラインで働く従業員がポジティブで生産的に働き続けられる自身のアイデアに、経営陣が耳を傾けると期待した。だが、その期待は間違っていた。
結果として、多くの米国人と同様、ジャネットとアレックスは、仕事に対する見返り(金銭的報酬、自分の仕事を自分で管理できている感覚、尊敬など)が自分たちのしてきた仕事に到底見合わないとの結論に至った。
彼らは、自分は得られた対価以上を提供していた、と理解した。そのため、自分たちの努力を削ることにした。ジャネットは、今もなおとても良い仕事をするが、遅くまで滞在することや追加シフトを取ることはない。アレックスは、以前と同じ量の問い合わせに対応しているが、努力して改善可能な点を考え、声を上げることはやめた。
これは、ジャネットとアレックスが「静かな退職者(quiet quitters)」になった経緯だ。「静かな退職者」とは何やら曖昧な言葉だが、最低限の仕事のみをする、または必要以上の努力をやめた人を指す。とはいえ最近特によく起こっているわけではない。仕事への意欲を失い、仕事に失望した従業員の間では何十年も前からあった。

「調節済みの貢献者」とは
筆者が気がかりなのは、彼らの呼び方だ。このような状況に対して「退職(quitting)」は明らかに軽蔑的で、敵対的な言葉に思える点にある。これに代わり、ジャネットやアレックスのことを合理的に対価に見合っただけの努力に調整をする従業員、つまり「調節済みの貢献者(calibrated contributors)」と呼ぶのはどうだろう。
この「調節済みの貢献者」という考え方は、ジャネットやアレックスが単に、公平性やバランスに関する自身の見立てに基づき、雇用主や米国の法律が公平性やバランスに即した行動を起こそうとしないと考えていると捉える。
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