時代や年代で変化する社会の価値観。それはやがて、制度や政治にも変化をもたらす。変化を止めることはできない。では、どのような要因がそうした変化をもたらすのだろうか。経済学で読み解く。
大阪大学感染症総合教育研究拠点特任准教授

LGBTQ。同性婚。選択的夫婦別姓──。近ごろメディアに頻繁に登場するこうした話題にはある一つの共通点がある。それは、年代や時代によって人々の考え方が異なるということだ。
例えば、内閣府の男女共同参画社会に関する世論調査によると、年代が若くなるほど、旧姓を通称として使用したいと思う人の割合が多くなる傾向がある*1。
また、共同通信社による最近のアンケート調査によると、30代以下は81.3%が同性婚に賛成するが、60代以上は51.4%にとどまる*2。
このような傾向は、日本以外の国々でも見られる。例えば、米シンクタンクのピュー研究所の調査によると、米国でも同性婚に賛成する割合は年配の人のほうが低い*3。そして、年代ごとに考え方が違うということは、時代を追って世代交代が進めば、社会全体の考え方が変わる可能性を示唆する。実際、同研究所の調査によると、同性婚に賛成する人の割合は徐々に増えているそうだ。つまり、社会を一つの単位として見ると、これらの考え方は決して固定化されておらず、流動的に変化している。
経済学における「文化」
経済学では、人々の考え方や価値観のことをまとめて、“culture”と呼ぶことがある(以下、「文化」と訳す)。定義は様々だが、例えば、サミュエル・P・ハンチントン氏の定義によると、「ある社会で人々の間に広まっている価値観、態度、信念、志向性、および前提」のことを指す*4。
この定義に従えば、社会における結婚に関する考え方なども一つの文化と言えるだろう。そして、近年、経済学の中でも、特に経済発展や政治経済を分析対象とする分野(経済発展論や政治経済学など)では、まさにこの文化が注目を集めている。
ここで2つの仮想社会を考えてみよう。1つ目の社会では、人々の様々な価値観や信念などの「文化」が流動的に変化している。一方、もう一つの社会では、それがずっと変化していない。例えば、結婚観に関して、「結婚は異性同士がするもの」、「結婚をしたら姓は一方に合わせる」という考え方がほとんど変化しない社会もあれば、流動的に変化する社会もある。
では、どういった社会がより流動的、あるいは固定的になるのだろうか。ネイサン・ナンとパオラ・ジュリアーノという2人の経済学者は、世代ごとの環境の違いに着目した*5。仮に今の世代と昔の世代が同じような環境に育っていれば、今の世代は、昔の世代の考え方や伝統をより引き継ぐだろう。一方、異なる環境に育っていれば、それらを引き継ぐ傾向はより小さくなるだろう。つまり、前者のような社会はより固定的になり、後者のような社会はより流動的になるはずだ。
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