キャリアや進路は、思いがけないことで決まるもの。「シナリオプランニング」などで知られる米ペンシルベニア大学ウォートン校のポール・シューメーカー教授が、ビジネスや人生で有利になりやすくなる、8つのアプローチを考察した。
米ペンシルベニア大学ウォートン校教授

英オックスフォード大学編さんの辞書は「luck(運)」という単語を、「自身の行動によってではなく、偶然によってもたらされたと思われる成功や失敗」と定義している。運は確かに偶然の産物だが、統計学をはじめ意思決定論、経済学、物理学、生物学(突然変異)など幅広い分野の研究テーマだ。偶然が決め手になる状況に対して我々が影響を与えられることも多い。我々の力と運の力は、互いにつながっているからだ。
芸術、科学、ビジネスなどの創造的な分野では、セレンディピティー(意図せずして有益な出来事や物事などを見つけること)は運だけでなく、間接的な仕組みでもたらされることもある。筆者は長年、ビジネスで「なぜあの人や会社は運が良さそうに見えるのか」に関心を持ち、幸運のいかほどが意図的な仕組みでもたらされるのか知りたいと思い研究してきた。
「スマート・ラック」とは何か
最初のチャレンジは、運は偶然の産物以上のものだと理解することだ。確かに運は確率に左右されるが、有利に持っていくことはできる。ベストを尽くし良いことが起こるのを待つのではなく(ダム・ラック)、良いことがより多く起こるよう環境を整える(スマート・ラック)のだ。
人生の成功がどの程度まで運やスキルによるかは見え方次第。だが幸運の女神がほほ笑む確率を高める戦略は、ある。宝くじやルーレットのような本当の賭け事ではうまくいかないかもしれないが、スキルとチャンスが複雑に絡み合い、部分的にコントロール可能なら「スマート・ラック」を試してみよう。
ほとんどのビジネスチャンスは、運と備えが不明瞭に交錯する場所にある。惑星が一直線に並ぶ瞬間に常に備えていなければならない。狙い澄ました備えがなければ、多くの偶然のチャンスは、本人すら気づかないうちに過ぎ去ってしまう。
1996年に開催されたアトランタ五輪のボクシング男子フェザー級準決勝でフロイド・メイウェザー氏を打ち負かしたブルガリアのボクサー、セラフィム・トドロフ氏は、決勝戦に進み銀メダル以上が確定していた。米国のボクシングプロモーターたちは、決勝戦の前に高額の契約金と契約書を用意しサインをするよう求めた。だが、自分が幸運に恵まれるとは夢にも思わなかったトドロフ氏は、何とその場で断った。
この時、トドロフ氏のために惑星は完璧に直列していた。人生でそんなタイミングは一度しかないが、彼はそれを見逃した。その結果トドロフ氏は決勝戦で敗れ銀メダルに終わり、八百長疑惑にも巻き込まれた。
一方トドロフ氏に断られたプロモーターは、敗れた若いメイウェザー氏に白羽の矢を立てた。メイウェザー氏は、心理的にも飛躍的な成功を収める準備が整っていた。準決勝で敗れたばかりだったが、チャンスをつかむ野心と分析力、そして冷静さがあった。彼は契約書にサインし、世界で最も有名なボクサーとなった。
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