この記事は日経ビジネス電子版に『アフターコロナに消費税の減税は必要なのか?』(2月14日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』3月14日号に掲載するものです。

家計消費の回復が遅れているが、消費刺激策として必ず候補になるのが消費税の減税だ。長期的に見た場合、本当に消費を刺激する効果があるのか。最新の研究を紹介する。

宇南山 卓[Takashi Unayama]
京都大学経済研究所教授
東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶応義塾大学、神戸大学、一橋大学などを経て現職。日本経済・家計行動・経済統計が専門。現在、家計簿アプリを活用した家計収支調査プロジェクトを実施している。

 家計消費の回復が遅れている。新型コロナウイルス感染拡大が落ち着いた昨年後半ですら、力強い回復は見られなかった。長期の消費活動の自粛に対する「リベンジ消費」の期待が外れる状況が続いている。18歳以下および低所得者への10万円の給付がまだ完了していないこともあり目立たないが、いずれ強力な消費刺激策を求める声が強まるだろう。選択肢として、根強い人気があるのが消費税率引き下げだ。2021年の衆議院選挙では、野党各党が消費税率の引き下げを公約にした。また、海外でも、ドイツが20年7月から12月末まで付加価値税を引き下げたのをはじめ、コロナ禍の中で多くの国が景気回復のための付加価値税率の引き下げを実施した。

 与党が勝利したため議論は盛り上がらなかったが、消費の停滞が続けば議論が再燃する可能性はある。今後の政策論議のためにも、消費税率引き下げが消費にもたらす影響を検討しておくことは有用であろう。

 筆者は、米連邦準備理事会(FRB)のデービッド・キャシン氏とともに消費税率の引き上げが消費に与えた効果を分析してきた。その分析に基づき、時限付きの消費税率の引き下げがもたらす影響を考察する。

消費税率変更の4つの効果

 消費税減税の効果を考える根拠として、まず経済学で消費税率の変更の影響がどう分析されてきたかを見てみよう。現代のマクロ経済学では、消費の動きは「ライフサイクル仮説」で説明される。家計が現在から将来にかけての所得に基づき「生涯可処分リソース」を計算し、それをできるだけ一定のペースで消費しているという理論だ。消費税の影響も、この枠組みがベースとなる。

 筆者らはこれまでの研究で、消費税率の変更が家計支出に与える影響は4つの効果に分解できることを示し、それぞれの効果を「所得効果」「異時点間の代替効果」「支出タイミングの裁定効果」、そして「時点内の代替効果」と呼んできた。これら4つの効果は、税率の変更がアナウンスされた時点と実際に税率が変更される時点の2時点の前後で別々に発生する。図1は、それぞれの効果による消費の反応のイメージを示した。