新型コロナウイルス感染症の拡大、ロシアのウクライナ侵攻、そして気候変動といったグローバルな課題に対し、企業が果たせる役割はたくさんある。筆者らは、そのパフォーマンス計測に使えるフレームワークを提案する。

英オックスフォード大学サイード経営大学院教授

新型コロナウイルス感染症の世界的流行、ウクライナにおける戦争、そして現在進行中の気候変動がもたらす危機は、グローバルな課題に取り組む上で企業が中心的役割を担うことができることを明らかにした。企業は経済だけでなく、人々や地球のため、社会問題や環境問題の解決に向けて一段と力を入れる必要がある。
インパクト・エッジ・コンサルティングのニコラス・アンドレウ氏との共著である本稿では、企業の社会的および持続的なパフォーマンスを、社内外の両面で評価するための新しいフレームワークを提案したい。
現状では、企業がより環境・社会貢献活動に積極的になるためのインセンティブである株主の影響力は限定的だ。一般的なフレームワークはあまりに狭く、主要なステークホルダーの懸念に対処ができていない。
環境(E)・社会(S)・統治(G)のESG評価は、労働関係やサプライチェーン(供給網)の持続可能性など、企業内部の業務に焦点を当てているが、製品やサービスが企業外のステークホルダー(利害関係者)に与える影響は十分に考慮していない。一方インパクト投資は、製品やサービスが貧困層のニーズに応えているかどうかといった、外部の問題に着目する。一方、従業員への待遇など企業内の要素を見過ごしている。
実際には、企業が社会や環境に与える影響は様々な面で認められる。例えば、米テスラは電気自動車を製造し、ライフサイクル全体で温暖化ガス排出量を大幅に削減しているが、同社の労働慣行は疑問視されている。インパクト投資の観点からは高評価を得られるかもしれないが、ESGの観点からは低評価となり、いずれの枠組みも全体像を把握できない。
その結果、どちらのアプローチにも不満が募っている。テスラが最近、米S&P500種株価指数のESGインデックス採用銘柄から除外されたことで、CEO(最高経営責任者)のイーロン・マスク氏はESG評価を「とんでもない詐欺」と言った。インパクト投資に対する批判により、一部の大手資産運用会社はインパクトファンドの名称をリブランドすることを余儀なくされた。社会的インパクトを評価する統合的なフレームワーク、つまり企業の社会的・環境的パフォーマンスの外部的・内部的な側面を考慮したフレームワークが必要だ。経営者や投資家がインパクトを正確に評価でき、複雑でグローバルな課題に取り組むことが可能になる。
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