この記事は日経ビジネス電子版に『米ウーバーや温暖化ガス削減で実践、アイデアを「スケール」する経済学』(2月7日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』2月28日号に掲載するものです。
フィールド実験や行動経済学の研究で現在、世界をリードする米シカゴ大学経済学部のジョン・リスト特別教授。ビジネスや政策の現場に飛び込んでつかんだスケールアップのためのチェックポイント「ビッグファイブ」を提唱する。
米シカゴ大学経済学部特別教授

アイデアが製品やサービスとして形になり、「スケール(規模拡大)する)」秘訣は何か。ジョン・A・リスト米シカゴ大学経済学部特別教授は、経済学の知見を米ホワイトハウスや米ライドシェア大手ウーバーテクノロジーズなど実務の現場で、試行錯誤しながら「実験」してきた。リスト教授はアイデアがスケールする過程で起きる現象を「ボルテージ・エフェクト」と呼ぶ。科学的知見をまとめた『The Voltage Effect:How to Make Good Ideas Great and Great Ideas Scale』(日本語版の発売時期未定)を発刊したリスト教授に話を聞いた。
(聞き手は 広野 彩子)
リスト教授は政策や企業の最前線で経済学のアイデアを課題解決に応用してきました。
スケールはアイデアで社会にインパクトを起こすための必須条件だと考えています。「人々の生活にインパクトを与えない限り、アイデアは無意味だ」というのが私の信条です。
例えば、オンライン小売り大手の米アマゾン・ドット・コムやウーバー、米電気自動車(EV)大手テスラが成功できたのはなぜだと思いますか。彼らのビジネスには、「規模の経済」(economies of scale)が利いたからです(注:「規模の経済」は、生産量が増加すると平均総費用が減少すること)。
それによって、ある程度まで規模を拡大できれば追加のコストが微少になる一方、後発企業がその規模に達するのは大変です。私はこれを「ボルテージ・ゲイン(熱気の上昇)」と呼んでいます。成長の熱気、ボルテージが上がり「ハイボルテージ」になればなるほど、利益が増える。
この反対の概念が、「規模の不経済(diseconomies of scale)」です。例えば、教育の質を高く維持したいと思えば、優秀な教員を大量に雇わなければなりません。教員を雇えば雇うほど、成果以上にコストが拡大する。これが規模の不経済です。
コストがかさみ続ける中、続けられなくなるタイミングが訪れる。私はこのタイミングを「ボルテージ・ドロップ(熱気の下落)」と呼んでいます。ボルテージ上昇とボルテージ下落、この2つを私は「ボルテージ・エフェクト(Voltage Effect)」と名付けました。
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