この記事は日経ビジネス電子版に『 コトラー教授「5年後も同じビジネスを続けたら、廃業することに」』(2021年12月24日)『 コトラー教授「新型コロナ、気候変動の『2C』とどう向き合うか」』(2021年12月27日)『 コトラー教授「日本が世界にどう貢献できるか考えてほしい」』(2021年12月28日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』2022年2月21日号に掲載するものです。
気候変動対応やウエルビーイングがトレンドとなっている2022年の企業マネジメント。マーケティングの父、フィリップ・コトラー米ノースウェスタン大学経営大学院名誉教授がマネジメントの歴史をひもとき、日本社会への期待を語った。
米ノースウェスタン大学経営大学院名誉教授

星野リゾート代表

日経ビジネスLIVEは2021年10月5~7日の3日間にわたりウェブセミナー(ウェビナー)「The Future of Management 2030~資本主義の再構築とイノベーション再興」を開催。世界の経済・経営学の英知を結集し、30年の企業とマネジメントのあるべき姿について意見を交わした。10月6日は「マーケティングの父」として世界的に知られるフィリップ・コトラー米ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院名誉教授と、星野佳路・星野リゾート代表が登壇。モデレーターを日経ビジネス編集委員の山川龍雄が務め、企業マネジメントの未来について議論した。
山川龍雄・日経ビジネス編集委員(以下、山川):今回はコトラー教授の講演、コトラー教授と星野代表の対談、そして視聴者からの質疑応答の構成です。コトラー教授の最近の関心事は、いかにお客様、消費者、社会全体に恩恵をもたらすか、いかにマーケティングを高次元に融合させていくかだそうです。コトラー教授の基調講演「ウエルビーイングと企業マネジメント」をお届けします。
黎明期のマネジメントとは
フィリップ・コトラー米ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院名誉教授(以下、コトラー氏):1870年前後、南北戦争が終わった頃、産業革命が始まった黎明(れいめい)期の米国のリーダーを振り返ろう。当時コーネリアス・ヴァンダービルトは汽船や鉄道の事業を、アンドリュー・カーネギーは製鉄会社を所有していた。JPモルガンは米国政府が財政危機に陥った際にお金を貸した人物だ。石油王のロックフェラー、金融界の天才といわれたグールドもいた。米国の産業を立ち上げることに貢献した人々だ。私が注目する一人はアンドリュー・カーネギーだ。
カーネギーは製鉄会社を設立し成功した人物だが、従業員に安い賃金を払い、抗議に遭うと警備員を雇い、銃で防衛したという逸話が残る。こうした行動は従業員が決して忘れることができない過酷なものだったようだ。だが彼はそうやって世界一の金持ちにのし上がった。
晩年の彼は「社会に良いことをしよう」と考え始める。その答えが図書館を建てることだった。多くの人に読書の機会をつくり、知識を得られる環境を提供した。彼は2000カ所以上の図書館の建設費にお金を出した。ほとんどは米国の図書館だったが、海外にもいくつか建てた。彼が望んだのは「本を読む機会を人々に提供し、人生を変えるチャンスを見つけてもらう」ことだった。
さて、今日の慈善事業家としてビル・ゲイツ氏やジェフ・べゾス氏の名前が思い浮かぶが、彼らは実際、「悪魔」なのか「天使」なのか。カーネギーの場合若い頃は悪魔だったが、高齢になって天使になったようだ。皆さんはどう思われるだろうか。
ルーズベルト大統領とビジネス
その後、世界のビジネスにとって大変に重要となった人物が、政治家で米国大統領になったセオドア・ルーズベルトだ。米国で最も尊敬されている4人の大統領の一人で、サウスダコタ州のラッシュモア山でワシントン、ジェファーソン、リンカーンと共にモニュメント像になった。
ルーズベルトは「良い国になるために、現在だけでなく未来の全ての国民にも奉仕をしなければいけない」と考えた。「世界を後世のためにより良い場所として残さなければいけない」と、今の自分たちが繁栄しているよう、未来の世代も繁栄しなければいけないと考えた。そして、彼は「良い行動をする」ことを信じていた。
その後の米国外交の基礎となった有名な言葉に「こん棒をもって静かに話す(こん棒=兵力などを備えつつ、静かに真意を話し合う)」がある。人々は道徳教育を受けるべきだ、とも考えていた。
Powered by リゾーム?