戦略の国際的な権威、米ダートマス大学経営大学院のビジャイ・ゴビンダラジャン教授。株式市場の反応を分析した共同研究で、目先の利益を減らすことになっても、企業は長期的に活動する行動特性を徹底的に身につけるべきとする。
米ダートマス大学経営大学院特別教授

目先の利益か、将来の種まきか? は、経営者が日々直面するジレンマだ。本稿は最近の研究に基づき、企業が戦略をシフトした時の株式市場の反応から、意思決定のヒントにつながる5つの指針を提示する。戦略の国際的な権威、米ダートマス大学経営大学院のビジャイ・ゴビンダラジャン教授と、アシシュ・スード氏、アヌプ・スリバスタヴァヌプ・スリバスヴァ氏、ルミニタ・エナシェ氏、バリー・ミシュラ氏の共同研究だ。
既存の競争力で利益を獲得し続けるか、将来の利益を生むかもしれないが現在の利益を減らす恐れのある新しい能力に投資するか。企業は極めて重要なジレンマに日々直面している。米ペプシコは、加糖製品で稼ぎ続けることと、変化する消費者ニーズに対応した健康飲料やスナックにシフトすることとの間でバランスを取らねばならない。米フォード・モーターは、既存の内燃機関車のブランドで稼ぎ続けるか、電気自動車、ライドシェア、自動運転車などの新興市場に向けて自己改革するかを選択せねばならない。
企業が短期・長期の目標双方を達成する「ダイナミックケイパビリティー」を育てることは、簡単でも安価でもない。企業は、希少な資源を種まきと刈り取りの間で最適配分することに苦労し、結局2つの間で揺れ動くといったことが多すぎる。
投資家は何に注目するか

経営者が、活動の重点を種まきと刈り取りの2つの間で行き来すべきだとしたら、タイミングはいつなのか。筆者らはこの問いを、投資家が企業の重点項目の変更にどう反応するか観察することで検証した。
投資家は、この移行を企業の販売費および一般管理費(販管費)から読み取る。販管費には戦略、ブランド、特許、イノベーション、顧客関係、市場情報、組織的な技術、人的資本のように将来の利益を向上させる投資と、製品・サービスのサポート、販売手数料、配送費、広告費などといった現在の業務を支援する投資が含まれる。これらの支出は米国経済で1兆ドルを超え、短期、長期両方の価値を創造し得る。
筆者らは、株式市場の反応は企業の最も強い長期的な利益を表す優れた指標との前提で、企業が戦略の焦点を「種まき」から「刈り取り」へ、もしくはその逆へ移行した時、株式市場の反応に違いが生じる条件を分析*1。これにより、筆者らは5つの重要な洞察を得た。
1.価値創造に絶えず焦点を当てよ
マスメディアはしばしば、株主が目先の利益にとらわれ、長期的な価値を犠牲にすることを嘆く。だが研究では株主はむしろ、企業が(将来のための)「種まき」から(短期の)「刈り取り」へ突然移行するときにネガティブな反応をすることが分かった。
これは投資家が、企業の突然の戦略変更が企業の利益に反すると考えていることを示している。つまり投資家は、企業が価値創造に焦点を当て続けている限り、利益を先延ばししても構わないと考えているのだ。
実際、この命題を裏付ける事例がある。営業損失に直面した米テスラ、米ウーバーテクノロジーズ、米ツイッターを、株主は100億ドル、1000億ドルの評価額で支持し続けた。将来の価値を構築し続けている企業だからだ。
株式市場が長期に焦点を当てる企業を罰するという一般的な誤解をうっかり信じると、有益な投資戦略を損ないかねない。インターネット、電機、医薬品、情報通信などのハイテク企業は、短期志向に移行した企業に対する市場の制裁を最も強く受ける。市場が(短期志向を)とりわけ嫌う潜在的な理由は2つある。
Powered by リゾーム?