清平調詞の話を続けさせていただきたい。

 玄宗皇帝は興慶宮の沈香亭で、楊貴妃とともに牡丹を愛でる宴を催した。歌の名手を呼び、清平調というメロディの歌を唄うように申し付けた。歌手がまさに唄おうとした時、玄宗はさらに興趣(きょうしゅ)を添えようと詩人の李白を呼び、楊貴妃を詠んだ詩を作るように命じた。

 そうして作られたのが「清平調詞」三首で、其一は先週紹介させていただいた。ここでは其三に触れさせていただきたい。

 〈名花傾国 両(ふた)つながら相歓(あいよろこ)ぶ 常に君王(くんのう)の笑いを帯(お)びて 看(み)るを得たり〉

 名花牡丹と傾国の美人、その二つに玄宗はご満悦で、笑みを浮かべていつまでも見つめている。

 〈解釈(かいしゃく)す 春風 無限の恨(うら)み  沈香亭北(ていほく) 欄干(らんかん)に椅(よ)る〉

 玄宗の寵愛を得た楊貴妃は、春風の限りない恨みを解きほぐし、沈香亭の北の欄干に寄りかかって花を愛でている。

 注目すべきは牡丹の花と楊貴妃が対称的に詠われていることと、「傾国」とか「無限の恨み」という否定的な言葉が使われていることだ。

 玄宗に呼び出された時、大酒飲みの李白は泥酔していたというが、楊貴妃が牡丹の花に似たぽっちゃりとしたグラマーであることや、玄宗が彼女に溺れて国を傾けかねないこと、そしてその場に漂う退廃的な雰囲気を、しっかりと描ききった。

 そこに李白の反骨の精神があり、それが宮廷から追放される遠因ともなったのだろうが、この時の玄宗はこの詩を否定しなかった。それは楊貴妃が放つ蠱惑(こわく)的な魅力の中に、退廃的なものが含まれていることを承知していたからではないだろうか。

<span class="fontBold">『源氏物語』の幕開けとなる「桐壺」で、紫式部は帝と桐壺の更衣との関係を、玄宗皇帝と楊貴妃になぞらえて描いている。クレオパトラやヘレネと並んで世界三大美人に数えられる楊貴妃の伝説は平安時代の日本でも有名だった(イラスト/正子公也)</span>
『源氏物語』の幕開けとなる「桐壺」で、紫式部は帝と桐壺の更衣との関係を、玄宗皇帝と楊貴妃になぞらえて描いている。クレオパトラやヘレネと並んで世界三大美人に数えられる楊貴妃の伝説は平安時代の日本でも有名だった(イラスト/正子公也)

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