今回は、これまで紹介してきた「顧客起点の経営改革」のフレームワークを用いて、古典の経営理論をいかに現代の経営に適用できるかを読み解いていく。前半ではピーター・ドラッカーの言葉を名著の記述から抽出し、顧客起点の重要性を解説する。後半ではマイケル・ポーターの戦略フレームワークを取り上げ、現在のビジネスにおける実装を考察する。

M-Force 共同創業者 / Strategy Partners 代表
P&Gで「パンパース」「パンテーン」などのブランド事業を手掛け、2006年からはロート製薬でスキンケアブランド「肌ラボ」を担当し、売り上げを8倍に伸ばした。15年からはロクシタンジャポンの社長として2年で最高収益の実現に貢献。スタートアップのSmartNewsでは日本と米国のマーケティング責任者として時価総額1000億円を超える成長に重要な役割を果たした。近年は経営およびマーケティングのコンサルティング活動と投資活動に従事。
(写真=北山 宏一)
寒冷地で冷蔵庫を売る
顧客が何を「価値」とするか
昔からある例え話で「常に氷点下の地域で暮らす方に冷蔵庫を販売する話」がある。冷蔵庫は食材の腐敗を防ぐ「保冷」が主便益として開発されているが、氷点下の地域でそれを訴えても無効だ。そこで、とあるセールスパーソンは「食材が“凍らない”からすぐに調理したり食べたりできる」と、「保温」を便益として伝えたのである。結果、氷点下の地域に冷蔵庫が広がった……という話だ。
筆者のフレームワークの1つ「顧客戦略(WHO&WHAT)」(最終ページ参照)では、プロダクトそのものに価値があるわけではなく、価値が成立する顧客とプロダクトの組み合わせが重要だと提唱している。顧客が自分事化できる便益と、他にない独自性を見いだしたときに価値が生じるが、この話は、まさにそれに合致する。
ドラッカーは著書『創造する経営者』において、「メーカーが合理的と考えるものを押し付けようとするならば、必ず顧客を失う」と述べている。企業が自覚するプロダクトの便益と独自性は、必ずしも顧客にとっての価値ではないのだ。
ドラッカーの「顧客の創造」

今回取り上げるドラッカーやポーターは、世界的に多くの経営者に影響を与え続けている。しかしその思想や概念は共感を呼びながら、実際の経営においては理想論すぎる、実行は困難だといった声もある。筆者は経営学や経済学の探究を目指しているわけではなく、あくまで「実務で実績を上げるために活用可能か」という視点で、これまで様々な理論や概念の活用を試みてきた。
中でも、ドラッカーが主張した顧客と企業の関係、ポーターの戦略定義とバリューチェーンに関しては、どのような業種にも普遍的に活用でき、経営層と実務現場層が共有できると確信している。一方、ポーターのファイブフォース分析は活用が難しく、実務で実行はしていない。全ての理論や概念をお勧めするわけではない点を、はじめに付記しておく。
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