本連載の第1~4回目では、顧客起点の経営改革を推進する一連のフレームワークを紹介した。今回は、顧客を9つのセグメントに分ける「9segs」の分類指標のひとつ、NPI(次回購買意向)を取り上げる。事業成長につながるような顧客からの認識や体験を作ることができているか、その指標として役立つNPIについて解説するとともに、顧客心理を踏まえた分析を通して事業成長を実現しているサイバーエージェントのメディア事業について紹介する。

<span class="fontBold"><span class="fontSizeL">西口一希氏</span><br />M-Force 共同創業者 / Strategy Partners 代表</span><br />P&Gで「パンパース」「パンテーン」などのブランド事業を手掛け、2006年からはロート製薬でスキンケアブランド「肌ラボ」を担当し、売り上げを8倍に伸ばした。15年からはロクシタンジャポンの社長として2年で最高収益の実現に貢献。スタートアップのSmartNewsでは日本と米国のマーケティング責任者として時価総額1000億円を超える成長に重要な役割を果たした。近年は経営およびマーケティングのコンサルティング活動と投資活動に従事。<br />(写真=北山 宏一)
西口一希氏
M-Force 共同創業者 / Strategy Partners 代表

P&Gで「パンパース」「パンテーン」などのブランド事業を手掛け、2006年からはロート製薬でスキンケアブランド「肌ラボ」を担当し、売り上げを8倍に伸ばした。15年からはロクシタンジャポンの社長として2年で最高収益の実現に貢献。スタートアップのSmartNewsでは日本と米国のマーケティング責任者として時価総額1000億円を超える成長に重要な役割を果たした。近年は経営およびマーケティングのコンサルティング活動と投資活動に従事。
(写真=北山 宏一)


CASE 5

NPIの生かし方
ジムニーの成長ポテンシャル

 今回は、軽自動車カテゴリーを取り上げ「次の機会に買う意志があるかどうか?」を尋ねる次回購買意向=NPI(Next Purchase Intention)をKPI(重要経営指標)とした場合、将来のブランドの成長ポテンシャルをどのように予測できるかを解説する。

軽自動車カテゴリーの成長ポテンシャル分析
<span class="fontSizeL">軽自動車カテゴリーの成長ポテンシャル分析</span>
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 まず、上の図をご覧いただきたい。こちらは、M-Forceが軽自動車の計14ブランドを調査した結果で、円の大きさは販売台数シェアを示す。公表されている販売台数データと、ネットリサーチを通して一般の方から「自動車を保有している人」(n=1241)を対象に実施した調査を基に、第三者の立場で分析した。

 縦軸は、2021年1~6月に取得した販売台数の前年同期比データ。横軸はその直前の20年12月に取得したNPIをもとに算出した「成長ポテンシャル」だ。これは第2回で紹介した9segs(セグズ)によって得られるKPIのひとつで、現在顧客(NPIの有無を問わず、現在のロイヤル顧客+一般顧客)に対する、離反あるいは認知未購買で「次に機会があれば買いたい(=NPIが高い)」とする顧客の割合である。平たくいうと、「顧客化の可能性が高い人がどれくらいいるか?」を示す。

 この相関を取ると、ひとつだけ離れた場所にプロットされたブランドがあった。(上図のD)。それがジムニーだ。ジムニーは以前からあるブランドだが、20年に新発売された車を除くと今年1~6月の販売台数の伸びが前年対比で突出している。

<span class="fontBold">2018年にフルモデルチェンジし4代目となったスズキ「ジムニー」</span>
2018年にフルモデルチェンジし4代目となったスズキ「ジムニー」

 そして、ジムニーは20年12月時点での成長ポテンシャルも飛び抜けて高かった。つまり、6カ月前に顧客心理データを取得した時点で、21年上半期の売り上げに対する見通しがある程度は得られていたわけだ。今回はサンプル数に限りがあり、統計的に相関の証明は難しいが、ほかのブランドも総合して、ある時点での成長ポテンシャルとその後の成長率には強い関係があった。