前回は、ターゲット顧客を未認知~ロイヤルの5層に分ける「5segs」、さらに「次回購買意向の有無」で分ける「9segs」という顧客分類のフレームワークを解説した。今回はさらにそれを進め、顧客を動態で捉えて時系列で可視化・定量化し、投資対効果を見極めて事業成長につなげる考え方を紹介する。ケースとして、製菓材料のECサイトを取り上げ、停滞していた売り上げを1年間で20%以上伸長させた具体的な方針と実践を解説する。

<span class="fontBold">西口一希氏<br />M-Force 共同創業者 / Strategy Partners 代表</span><br />P&Gで「パンパース」「パンテーン」などのブランド事業を手掛け、2006年からはロート製薬でスキンケアブランド「肌ラボ」を担当し、売り上げを8倍に伸ばした。15年からはロクシタンジャポンの社長として2年で最高収益の実現に貢献。スタートアップのSmartNewsでは日本と米国のマーケティング責任者として時価総額1000億円を超える成長に重要な役割を果たした。近年は経営およびマーケティングのコンサルティング活動と投資活動に従事。(写真=北山 宏一)
西口一希氏
M-Force 共同創業者 / Strategy Partners 代表

P&Gで「パンパース」「パンテーン」などのブランド事業を手掛け、2006年からはロート製薬でスキンケアブランド「肌ラボ」を担当し、売り上げを8倍に伸ばした。15年からはロクシタンジャポンの社長として2年で最高収益の実現に貢献。スタートアップのSmartNewsでは日本と米国のマーケティング責任者として時価総額1000億円を超える成長に重要な役割を果たした。近年は経営およびマーケティングのコンサルティング活動と投資活動に従事。(写真=北山 宏一)


CASE 3

1年で躍進したcotta
初回購買を促す施策

<span class="fontBold">顧客を動態で捉え、会員数を伸ばしたcotta</span>
顧客を動態で捉え、会員数を伸ばしたcotta

 製菓材料ネット通販の「cotta」は、一般生活者からプロまでを対象に、お菓子やパンの材料、道具類を販売している。豊富なレシピ情報の提供や、約200人のインフルエンサーと提携した記事制作、通信講座の運営なども行う。

 同サイトを運営するcottaは、創業以来約20年にわたり増収を続けていたものの、2017~19年は売り上げが伸び悩んでいた。ネット通販事業は06年に開始し、口コミなどで一定の顧客数を獲得していたため、近年は既存顧客を維持する施策を主に実行していた。その効果が以前よりも上がりにくくなっていた。

 そこで、ターゲット顧客を9つのセグメントに分類し、その間の動きを時系列で追っていく「顧客動態(カスタマーダイナミクス)」フレームワークを導入した。認知・購買経験・購買頻度と、次回購買意向の有無という2つの軸で各セグメントの分布を確認すると、投資活動とコミュニケーション内容が既存顧客に傾注しすぎており、潜在的な新規顧客には認知が形成されていない事実が見えてきた。

 そうした状態を踏まえて、「次の機会にはcottaで買い物をしてみたい」という次回購買意向はあるが、まだ購買経験のない新規顧客セグメントに注目。

 この顧客層の心理と行動の関係性を深掘りすると、「cottaを利用してみたいがお菓子やパン作りは難しそう」との心理を突き止めることができた。そこでその心理を変え、行動変化を促せるよう「製菓の知識や経験がなくても簡単につくれるキット」を企画・販売した。そして、その有効性を確認すべく、デジタルマーケティングとTVCMを組み合わせた小規模なテストを実施した。

 結果、新規購買を増やして、大きく成長した。17年から19年は微増だった売り上げが、19年から20年には約20%以上伸長し、78.6億円となった。会員数も53万人から120万人に倍増、InstagramやYouTubeなどのSNSフォロワー数は合計100万人近くになっており、継続的に成長している。

 ポイントの一つは、顧客を認知や購買だけでなく、次の機会には買いたいか(次の機会も買いたいか)という心理状態によっても分類したこと。もう一つは、顧客を「動態」で捉え、時系列で分析したことだ。顧客を精緻にセグメントし、アプローチしたい層を見定めて戦略を立案し実施したとしても、その前後で狙い通りの購買行動が起きたのかが分からなければ効果検証ができず、投資の最適化ができない。

 顧客は常に動いている。「顧客動態」フレームワークを活用することで、刻々と動く顧客を可視化・定量化して、事業成長につながる投資を実現できる。

続きを読む 2/4 マーケットは動態である

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