連載初回の前回は、経営者が顧客を向いておらず、顧客心理をつかみそこねているのではないか、と指摘したうえで、顧客起点の経営を実現していくためのフレームワークを紹介した。今回は、さらに顧客分析を深めていくために、日々変化する顧客の心理や行動をもとに分類し、セグメントごとに対応する必要性を解説する。ケースとして、キャッシュレス決済サービスを提供する会社の動きを例に、顧客の動きを分析していく。

<span class="fontBold"><span class="fontSizeL">西口一希氏</span><br>M-Force 共同創業者 / Strategy Partners 代表</span><br>P&Gで「パンパース」「パンテーン」などのブランド事業を手掛け、2006年からはロート製薬でスキンケアブランド「肌ラボ」を担当し、売り上げを8倍に伸ばした。15年からはロクシタンジャポンの社長として2年で最高収益の実現に貢献。スタートアップのSmartNewsでは日本と米国のマーケティング責任者として時価総額1000億円を超える成長に重要な役割を果たした。近年は経営およびマーケティングのコンサルティング活動と投資活動に従事。(写真=北山 宏一)
西口一希氏
M-Force 共同創業者 / Strategy Partners 代表

P&Gで「パンパース」「パンテーン」などのブランド事業を手掛け、2006年からはロート製薬でスキンケアブランド「肌ラボ」を担当し、売り上げを8倍に伸ばした。15年からはロクシタンジャポンの社長として2年で最高収益の実現に貢献。スタートアップのSmartNewsでは日本と米国のマーケティング責任者として時価総額1000億円を超える成長に重要な役割を果たした。近年は経営およびマーケティングのコンサルティング活動と投資活動に従事。(写真=北山 宏一)


CASE 2

PayPay、楽天ペイ
決済サービスの行方

 数年前から顧客の獲得競争を展開している電子決済サービス。それぞれのシェアや今後の成長ポテンシャルを見通すため、筆者の会社Strategy Partnersでは、2019年2月に電子マネーブランドに関する顧客調査を実施した。

 24~50歳の男女1300人を対象に、各ブランドについて「毎週使用している(ロイヤル顧客)」から「知らない(未認知顧客)」までの5つの利用状況、および「次回も使用したいか(次回使用意向)」を尋ねた。これは第三者の立場でも可能な、マーケット概要を把握できる簡易調査だ。ただし統計学的な正確性を追求するものではないことを付記しておく。

 各ブランドの顧客構成は、下の表のようになっていた。調査前年の18年は、PayPayやLINE Payなどの様々な新興QRコード決済がサービスを始め、TVCM宣伝と同時に大規模な割引提案を重ね、全国にユーザーを獲得していた。

キャッシュレス決済に関する調査
<span class="fontSizeL">キャッシュレス決済に関する調査</span>
【調査概要】Strategy Partnersが2019年2月、24~50歳までの1300人の男女を対象に電子マネーブランドの認知度、使用状況、今後の使用意向などを調査した。
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 この段階で、各ブランドの特性を分析した。赤色で示した表の「現在使用率」を参照すると、19年2月時点での各ブランドの使用率は、新たに登場したPayPayは8.4%、LINE Payが6.0%、楽天ペイが8.1%。先行する楽天Edyや、交通系であるSuica、流通系であるセブン&アイグループのnanaco、イオングループのWAONを追い上げようとしていた。

 使用率だけを見ると、猛追する新興3ブランドの状況は、どれもそう変わらないように見える。だが、実はオレンジで示したもう一つの軸「次回使用意向の割合」で見ると、17.4%、44.0%、28.0%と差が大きい。

 この調査から現在までの2年半の間に、新興3ブランドは様々な動きを見せた。詳しくは後述するが、注目したいのはサービス間の連携による規模の拡大と、金融サービスとの接続だ。

 こうした打ち手の動きの背景にあるものは、一体何だろうか。それは、顧客を「使用(購買)状況」と「次回使用(購買)意向」の2軸で分類し、セグメントごとに分析することで見えてくる。

KEY FINDINGS

顧客を正しくセグメントする

 前回、顧客心理を捉えることの重要性を指摘した。顧客の心理、それに伴う行動は常に変化していることを忘れてはならない。今回と次週の第3回で、顧客を細かく分類し、顧客を動態で捉えることの重要性、有効性を解説する。

 多くのプロダクトで、認知率や購買経験の調査がなされているが、次回購入意向の把握や、その両方を掛け合わせて分類・分析するケースはまずないだろう。

 このように分類する目的の一つは、顧客を可視化・定量化して施策の投資対効果を逐一見極めることで、持続的な事業成長につなげること。もう一つは、次に買いたい・使いたいという、顧客行動の手前にある「顧客心理」の変化を、施策や効果検証に含めることだ。

まず顧客を5層に分ける

 前段の決済サービスに関する調査では、まず各サービスについて「知っているか(認知)」「使ったことがあるか(使用経験)」「どのくらい使っているか(使用頻度)」を尋ねた。

 どの程度の使用頻度をロイヤルと見なすかは、商品・サービスごとに異なるが、ここでは「毎週使用している」人をロイヤル、それには満たない人を一般とした。使ったことはあるが半年以上の間が空いている人は離反、さらに各決済サービスについて、知ってはいるが使ったことがない人は認知未使用、名前も知らない人は未認知とし、計5つに分類した。

 すると、各サービスにおいて「ロイヤル/一般/離反/認知未使用/未認知」顧客がどのような割合で分布しているかを把握できる。先の例でいうと新興のPayPayはロイヤル顧客がまだ1.6%だが、先行するSuicaは8.1%と、市場への一定の定着が確認できる。