この記事は日経ビジネス電子版に掲載した『地方創生に身を焦がす』を加筆・再編集して雑誌『日経ビジネス』に掲載するものです。

ばらばらだった情報をまとめるところからスタートした「ふるさとチョイス」。自治体から感謝の連絡が届き始める。初めての契約ではかけがえのない達成感も得た。事業は順調に拡大していったが、ふるさと納税の理念から逸脱する自治体が出始めた。

<span class="fontBold">須永珠代[すなが・たまよ]氏<br>トラストバンク会長兼ファウンダー</span><br>群馬県伊勢崎市生まれ。2012年4月にトラストバンクを設立し、同年9月、ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」を開設。「自立した持続可能な地域をつくる」との目標を実現するために様々な新規事業を手掛ける。観光庁の検討会の委員なども務めた。20年1月にトラストバンクの会長兼ファウンダーに就任した。(写真=的野 弘路)
須永珠代[すなが・たまよ]氏
トラストバンク会長兼ファウンダー

群馬県伊勢崎市生まれ。2012年4月にトラストバンクを設立し、同年9月、ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」を開設。「自立した持続可能な地域をつくる」との目標を実現するために様々な新規事業を手掛ける。観光庁の検討会の委員なども務めた。20年1月にトラストバンクの会長兼ファウンダーに就任した。(写真=的野 弘路)

 私が最初にやってみたふるさと納税は、北海道の広尾町でした。返礼品のイカの干物が届いたとき、梱包を開けて驚きました。一人暮らし用の冷蔵庫には収まらず、足を折って斜めに入れてようやく入るサイズ。そんな大きな干物は見たことがありませんでした。

 それまで私はふるさと納税の返礼品を「おまけ」くらいの位置付けでしか捉えていませんでした。でも、実際に届いた返礼品を見たら、興奮を抑えきれなかった。この体験をみんながしたら、どれだけすごいことになるんだろうと一気に夢が広がりました。

 2012年9月に開設したばかりの「ふるさとチョイス」は、個々の自治体のページに散らばっていたふるさと納税の情報を共通のフォーマットでまとめあげたものでした。まだ、ふるさと納税に力を入れている自治体がほとんどなかったころです。情報を探そうとしても、ウェブサイトの奥深くに独自の形式でひっそりと掲載されている程度でした。一つひとつの自治体を手作業で調べて、表に入力していくという地道な作業を続けました。

 自治体のサイトに掲載されている情報とはいえ、自治体から許可を得る必要があります。「掲載に問題がある場合は連絡をください」とファクスで全国の自治体に一斉に送りました。幾つかの自治体から「情報にズレが生じてしまう」という理由で掲載拒否の連絡がありましたが、ほとんどの自治体からは特に拒否反応はありませんでした。

 ふるさとチョイスは情報を見やすく整理しているだけなので、マネタイズは簡単ではありません。申し込みや決済などの機能を加える構想は持っていましたが、そこまでは手が回りませんでした。

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