地方の中小の酒蔵を「純米大吟醸」の分野で日本一の地酒メーカーに育て上げた。おいしいと言ってもらえる酒を追いかけ、危機を乗り越えようと必死に試行錯誤してきた。未曽有の自然災害に巻き込まれても社員を鼓舞し、手塩にかけて造った酒への愛を貫いた。

(写真=森本 勝義)

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、清酒業界も大きな影響を受けました。旭酒造にとって特に厳しかったのは2020年3~5月の3カ月間です。まず輸出が大きくダウンするところから始まりました。新型コロナの感染拡大が海外で先行したためです。輸出に力を入れてきた我々は、輸出が売上高の4割ほどの水準になっているので、影響も非常に大きかった。

 そうこうするうちに、国内の売上高もあっという間に半分になってしまいました。「酒造として何とか経営を維持するには、前年比で何%の売上高を確保しなければならないのか」。不安になった私は、大慌てで社員に調べさせました。倒産も頭によぎるほど大変な状況でした。

 需要の急減に合わせて、生産量を一気に落としました。通常の生産量のままでは、おいしく飲んでもらえる期間のうちに販売できる見通しが立たなかったからです。

 今度はそれが裏目に出てしまいます。アジアを中心に経済の回復ペースが速く、想定以上の勢いで輸出が戻り始めたのです。インバウンド(訪日外国人)のお土産需要がなくなった一方で、自国で買ってくれる人が増えました。その結果、7月から3カ月ほどの間は販売できるお酒が足りませんでした。

 需要が不安定な状態に対応しきれなかったことで、20年9月期は売上高が106億円、前年比で2割減の大幅ダウンとなりました。コロナ禍というこれまでにない難題を前にして、あらためて経営の難しさを感じています。

 今回の問題で新しい気付きもありました。清酒業界は飲食店を向きすぎていたという反省です。

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この記事はシリーズ「旭酒造・桜井会長の「不屈の路程」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。