有名大学の経営学関連の学部・大学院などと連携して誌面講義をする新シリーズ。初回は慶応義塾大学商学部から組織の経済学などが専門の菊澤研宗教授に登場してもらう。日本企業が陥りがちな失敗の実例を挙げ、近年注目されている経営理論から読み解く。

<span class="fontBold fontSizeM">菊澤研宗 教授[Kikuzawa Kenshu]</span><br> <span class="fontBold">1957年生まれ。慶応義塾大学商学部卒業、同大学大学院博士課程修了後、防衛大学校教授などを経て、2006年から現職。この間、ニューヨーク大学スターン経営大学院、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員。現在、日本経営学会理事などを務める。</span>(写真=竹井 俊晴)
菊澤研宗 教授[Kikuzawa Kenshu]
1957年生まれ。慶応義塾大学商学部卒業、同大学大学院博士課程修了後、防衛大学校教授などを経て、2006年から現職。この間、ニューヨーク大学スターン経営大学院、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員。現在、日本経営学会理事などを務める。(写真=竹井 俊晴)

 日本企業の失敗の一つは、成功体験のわなである。成功体験がもたらす失敗は一般的には、成功した後に人々の気が緩み、怠けてしまって大失敗に至るということを意味するのだろう。

 ところが、日本人の場合、逆である。真面目な日本人は、成功すると怠けることなく、より努力して成功を確実なものにしようとする。この成功後の過剰な努力こそが、不条理にも真面目な日本人を失敗に導くのである。

 以下、このような不条理を「パラダイムの不条理」と呼び、日本的失敗のメカニズムについて説明する。そして、その不条理を回避するためには、今日、世界でもっとも注目されている戦略経営論であるダイナミック・ケイパビリティ論が必要になることを説明してみたい。

 「パラダイム」は科学史家であったトマス・S・クーンが、科学の歴史的発展を描くために使用した用語である。パラダイムとは、特定の科学者集団が採用する共通の理論やそれを応用する方法などをいう。簡単にいえば、「思考の枠組み」のことである。

「交渉・説得」というコスト

 例えば、ニュートン力学などは典型的なパラダイムだと見なされる。クーンによると、バラバラな研究活動も、ある集団が1つの「パラダイム」を選択し、集中すると、その活動は科学として構造化され、発展していくという。

 パラダイムは、初めから完成されているものではない。科学者集団はパラダイムを早く完成させるために、できるだけ多くのことを肯定的に受け入れながら研究を進めることになる。

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