65歳以上が全人口の25%を占め、少子高齢化で世界の先頭を走る日本。従来の若者中心のマーケティングは方向転換を迫られているが、長寿者研究では先端となる可能性を秘める。清水聰教授の調査からは、これまでの画一的な長寿者像とは異なる、新たな一面が見えてきた。

<span class="fontBold">Akira Shimizu</span><br> 1963年東京生まれ。86年慶應義塾大学商学部卒。同大学大学院修士課程、博士課程を経て、91年明治学院大学経済学部専任講師、助教授。2000年同大学経済学部教授。09年慶應義塾大学商学部教授。14~15年米ピッツバーグ大学Katz Graduate School of Business訪問研究員。博士(商学)。近著に『New Consumer Behavior Theories from Japan』(単著、Springer、2021)がある。(写真=的野 弘路)
Akira Shimizu
1963年東京生まれ。86年慶應義塾大学商学部卒。同大学大学院修士課程、博士課程を経て、91年明治学院大学経済学部専任講師、助教授。2000年同大学経済学部教授。09年慶應義塾大学商学部教授。14~15年米ピッツバーグ大学Katz Graduate School of Business訪問研究員。博士(商学)。近著に『New Consumer Behavior Theories from Japan』(単著、Springer、2021)がある。(写真=的野 弘路)

 日本の全人口に占める65歳以上の割合は現在25%を超えており、この数値は世界中で最も高い。先進国の中で日本に次ぐのはイタリアだが、日本と同じレベルに到達するにはあと10年を要する。先進国はどこも少子高齢化が進んでおり、これまでのように若い人をターゲットにしたマーケティングは方向転換を求められている。

 マーケティング領域での長寿者の研究は、1960年代ごろから存在するが、それらの研究では、長寿者マーケットは存在するものの、あまり魅力的なマーケットではない、と結論づけるものが多かった。その理由は、そもそも長寿者の人数が多くないため、そこをターゲットにしても採算が合わないこと、将来の収入減に備えて、支出を抑える行動に出やすいこと、すでにモノを多く持っているため、モノを買わないこと、モノを購入する際も、その選択肢の候補には、今まで買ったことのある商品ばかり並び、利幅の大きい新商品や新しいブランドが並ばないこと、などが挙げられている。

認知機能の衰えが消費に影響

 ではどうして長寿者は新商品や新ブランドを候補にしないのか。最近の老年学とマーケティング研究を併せて考えると、長寿者の購買メカニズムは以下のようにまとめられる。

 まず加齢による認知機能の低下から、長寿者は複雑な思考を回避して意思決定を行いやすい。このため、意思決定にかける時間は若年層に比べて短くなる傾向にある。複雑な思考を回避して意思決定ができるのは、過去の経験とそこから導かれたヒューリスティックスを用いるからで、特に若い時の経験が大事とされる。

 ただし、新商品の購入の場合、過去の経験が使えず、情報量が絶対的に不足するので、間違った判断をすることも多くなる。その間違った判断から生じるストレスを回避するために、現状維持を第一とする目標を立てて意思決定を行いやすい。その結果、長寿者が購入しようとする商品リストには、新製品よりも、過去に購入や利用をしたことのあるものが入ってきてしまう。これが結果的に新商品や新ブランドではなく、同じような商品を購入してしまう理由である。

 このように、加齢によって必然的に生じる認知機能の衰えが、長寿者に新商品や新ブランドを買いにくくさせている。このため、新商品や新ブランドを売りたい企業にとっては、若い人をターゲットとする方が効率的だ。しかし、25%以上の国民が長寿者で、少子高齢化がますます進む日本では、そうも言っていられない。

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