米国発の理論や事例が多いマーケティングだが、慶應義塾大学の清水聰教授は日本独自のものを発信している。その1つがインターネット時代に対応した、新しい消費者の意思決定プロセスである。従来の消費者行動研究からクチコミまでを包含する新しいプロセスは、広告の効果測定などを変える力を持つ。

<span class="fontBold">清水 聰 教授[Akira Shimizu]</span><br />1963年東京生まれ。86年慶應義塾大学商学部卒。同大学大学院修士課程、博士課程を経て、91年明治学院大学経済学部専任講師、助教授。2000年同大学経済学部教授。09年慶應義塾大学商学部教授。14~15年米ピッツバーグ大学Katz Graduate School of Business訪問研究員。博士(商学)。近著に『New Consumer Behavior Theories from Japan』(単著、Springer、2021)がある。(写真=的野 弘路)
清水 聰 教授[Akira Shimizu]
1963年東京生まれ。86年慶應義塾大学商学部卒。同大学大学院修士課程、博士課程を経て、91年明治学院大学経済学部専任講師、助教授。2000年同大学経済学部教授。09年慶應義塾大学商学部教授。14~15年米ピッツバーグ大学Katz Graduate School of Business訪問研究員。博士(商学)。近著に『New Consumer Behavior Theories from Japan』(単著、Springer、2021)がある。(写真=的野 弘路)

 我が国に近代的なマーケティングの考え方が導入されたのは1950年代初頭であり、以後、海外、特に米国から多くの理論や事例が紹介され発展してきた。ただし、経営学では「カイゼン」や「カンバン方式」など、日本の経営手法が世界に紹介され、グローバルで日本的経営が議論されているのに対して、マーケティングは、依然として欧米からの理論や欧米企業の事例紹介から脱却できていない。ドラッカーがその著書『マネジメント』の中で、世界最古のマーケティングは三井呉服店の販売方法、と記しているように、日本にはそもそもマーケティングの素地があるのに残念なことだ。

 ただ、東京五輪・パラリンピック誘致の際に話題になった「おもてなしの心」や、「Cool Japan」など、世界に注目されるマーケティングの種が、少しずつではあるが、海外に浸透してきている。学術研究は、大きく分けると「理論」「分析手法」、そして「データ」の3つから成り立っているが、30年強の研究者生活で、「理論」と「データ」に関しては、世界と戦える日本独自のものがあると考えている。この連載を通じて、日本から発信できるマーケティングについて関心を持ってもらえれば幸いである。

ネット時代の意思決定プロセス

 1回目は、日本から発信できる「理論」で、インターネット時代に対応した、新しい消費者の意思決定プロセスである、情報循環型意思決定プロセスについて考察する。消費者の意思決定プロセスとは、その名の通り、消費者が何らかのニーズを感じ、商品を購入するまでのプロセスを探求する研究で、これが明らかになると、消費者が商品選好の際、何を重視するのかが示されるとともに、どのタイミングでどのような情報を、どの媒体を通じて消費者に提供するのが最も効率的なのかも判明するため、マーケティング戦略を考えていく上で重要な概念だ。

 実務の世界で用いられる「カスタマージャーニー」もこの範疇(はんちゅう)である。また、候補のブランド群から最終的に1つの選択肢に絞り込んでいく、いわゆる「ファネル分析」も、この意思決定プロセスの中で行われる。

 学術的に言うと、意思決定プロセスの研究は2つの潮流がある。

 一つは、消費者行動研究からの理論展開であり、リスクの低い商品を購入する際の意思決定プロセスである「刺激反応型」(下:図1)で、もう一つは、比較的リスクの高い商品を購入する際に用いられる「情報処理型」(下:図2)である。

消費者がどのように購入を決めるかのプロセスが研究されてきた
●図1:刺激反応型の概念図
<span class="fontSizeL">消費者がどのように購入を決めるかのプロセスが研究されてきた</span><br /><span class="fontSizeS">●図1:刺激反応型の概念図</span>
●図2:情報処理型の概念図
<span class="fontSizeS">●図2:情報処理型の概念図</span>

 「刺激反応型」は、例えば小売店内の特売で好意的な態度が構築され購入に至る場合の意思決定プロセスであり、値引きや電子クーポンなど、プロモーションの効果を測定する際には有用な考え方である。

続きを読む 2/4 日本発祥の「AISAS」「SIPS」

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り3526文字 / 全文5204文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題

日経ビジネス最新号、10年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「特別誌面講義」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。