慶應義塾大学商学部の牛島辰男教授が多角化企業のマネジメントを解説する特別講義の最終回。複数の事業を持つ企業はどのような組織形態を取れば、効率的にシナジーを生み出せるのか。事業ごとに組織をつくる事業部制の構造が一般的ではあるが、そこにはジレンマもある。

牛島辰男 教授[Ushijima Tatsuo]
1989年、慶應義塾大学経済学部卒。91年、同学大学院経済学研究科修了。2003年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)アンダーソン経営大学院、経営学博士(Ph.D.)。三菱総合研究所研究員、青山学院大学大学院国際マネジメント研究科(青山ビジネススクール)准教授・教授を経て現職。(写真=的野 弘路)

 最終回である今回は、多角化企業の組織について考える。企業組織は多様な活動が部門間で分業され、階層構造(ヒエラルキー)を通じて調整・統合されることで機能するシステムである。それを成り立たせている組織構造は企業の骨格であり、企業の持つ資源や能力とともに、企業のできること、できないことを規定する。多角化企業がシナジーを生み出す上でも、組織づくりは重要な課題となる。

 多角化企業の組織のテンプレートともいえる形が、事業部制組織である。この組織構造では、特定の事業を専門的に担う事業部門が複数つくられ、トップマネジメントの下に並列に配置される(下図)。

事業部制組織は事業の実力が明確になりやすい
●事業部制組織のプロトタイプ

 事業部門は企業レベルで本社部門として集約したほうが効率的な間接機能を除き、事業のバリューチェーンをフルセットで内部に持つため、活動の自己完結性が高い。事業部門はまた、活動の成果が事業の生み出す利益によって計測・把握されるプロフィットセンターである。

 事業部門のトップである事業部門長は、担当する事業における企業の活動を全体として方向づける権限を持つとともに、その成果(利益)への責任を負うゼネラルマネジャーである。

 したがって、事業部制組織のヒエラルキーには、企業全体への指揮権限と責任を持つ企業のトップと事業部門長という2種類のゼネラルマネジャーが存在することになる。これらマネジャーの間のタテの分業により企業が経営されることも、事業部制組織の重要な特徴である。

「亜種」が多い事業部制組織

 実際のところ、上記のような概念通りの事業部制組織を持つ企業はまれである。事業部制組織には多くの「亜種」が存在しており、ある意味では多角化企業の数だけバリエーションがある。

 例えば、「事業部門」は文字通りの部門(会社の内部部門)とは限らず、独自の法人格を持つ子会社として存在することも多い。親会社の内部に組織された事業と子会社化された事業が混在するグループ構造は、多角化企業では極めて一般的な組織形態である。すべての事業を子会社としてつくるならば、企業自体は持ち株会社になり、その下に事業子会社が並ぶホールディングス構造になる。

 また、多くの事業を擁する企業では、トップと事業の間にカンパニーなどの中間部門を挟む階層的な構造も多く見られる。事業のバリューチェーンの一部しかカバーしておらず、概念的には事業部門とは呼びがたい「事業部門」も珍しくない。

 こうしたバリエーションが生まれる理由の一つとして、シナジーのタイプによって望ましい組織の姿が変わることがある。そこで、事業シナジーと財務シナジーのそれぞれについて、どのような組織が適しているのか考えてみることにしよう。

続きを読む 2/4 事業シナジーに適した組織

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り3649文字 / 全文5219文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

オリジナル動画が見放題、ウェビナー参加し放題

日経ビジネス最新号、9年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「特別誌面講義」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。