慶應義塾大学の王英燕(オウ・エイエン)教授による組織論講義の最終回。日本、米国、中国の組織はそれぞれ何を原動力にして動いているのかを探る。経営トップの考え方によるところが大きい米中に対し、日本は継承される理念や価値観で動いているとみる。

<span class="fontBold">王英燕 教授[Yingyan Wang]</span><br> 1977年、中国江西省生まれ。98年中国中山大学卒業。2003年、京都大学大学院経済学研究科修士課程修了。07年、同博士課程修了(博士:経済学)。京都大学経済学研究科准教授などを経て、慶應義塾大学商学部教授。米スタンフォード大学修士。(写真=的野 弘路)
王英燕 教授[Yingyan Wang]
1977年、中国江西省生まれ。98年中国中山大学卒業。2003年、京都大学大学院経済学研究科修士課程修了。07年、同博士課程修了(博士:経済学)。京都大学経済学研究科准教授などを経て、慶應義塾大学商学部教授。米スタンフォード大学修士。(写真=的野 弘路)

 企業を取り巻く経営環境が厳しくなると、短期的な対応としては早期退職の実施や不採算部門の清算など、財務上の数値改善が真っ先に行われる。しかし、それらは一時しのぎの対策にしかならない可能性もある。

 仮に人件費をカットして財政的な困難を乗り越えたとしても、長期的には、成長に必要な人材を確保しにくくなる方向に進んでしまう。一般的に、優秀な社員ほど転職先が見つかりやすいため、会社の危機を察知すると、早めに回避しようと手を打つ。

 少子高齢化が進行する日本では、慢性的な人材不足に陥る傾向が高く、市場から必要な人材を簡単に補充することが難しくなってきている。中小零細企業やサービス業の多くでは、市場や顧客の問題というよりも、後継者不足や従業員を安定的に確保できないとの理由での廃業が増えている。

 環境変化が急速に進む時代に、経営状況の一時的な悪化を避けることは難しい。このような時期だからこそ、我慢強く組織をけん引する原動力が求められる。では、この原動力をどこに求めればよいだろうか。

 そのヒントが、組織の本質とは何かを考える「組織アイデンティティー(organizational identity)」という概念に隠されている。「組織の中核的(central)、持続的(enduring)、特異的(distinctive)特徴」という定義は広く知られている。組織は「われわれは何者なのか」を定義づけることによって、自分の根源はどこにあるのか、これからどこに向かうのかを模索する。この模索するプロセスの中で成長と試練を乗り越える原動力が生まれてくる。

 この考え方は、組織も人間と同じようにアイデンティティーを持っているという考えに基づくものである。人間が自分のアイデンティティーを内在的に理解することを重視するのに対して、企業は組織体として自身のアイデンティティーに関する信念と理解を探索して、内外に「公表」する活動も大切である。組織アイデンティティーの探索と形成プロセスにおいて、日米中の企業はそれぞれ特徴を持っており、それに伴う原動力も異なっていると考えられる。

続きを読む 2/3 日本:価値観の継承と発展

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