慶應義塾大学商学部の王英燕(オウ・エイエン)教授による組織論の第2回は人間関係に焦点を当てる。私たちが時に決められた役割を越えて同僚や後輩を助け、組織のために尽くすのはなぜなのか。日米中それぞれの組織には、文化・社会的な背景から生まれる独特な人間関係が存在している。

王英燕 教授[Yingyan Wang]
1977年、中国江西省生まれ。98年中国中山大学卒業。2003年、京都大学大学院経済学研究科修士課程修了。07年、同博士課程修了(博士:経済学)。京都大学経済学研究科准教授などを経て、慶應義塾大学商学部教授。米スタンフォード大学修士。(写真=的野 弘路)

 組織には様々な人材が集まっている。企業は目的達成に向けて最適な組織をつくるため、人材を適材適所に配置し、各個人の能力開発を図る。そして人間関係の良い職場ほど、コミュニケーションが円滑になり、仕事の効率が高くなるといわれている。

 人間関係の特徴を理解するために「社会的交換(social exchange)」という概念に注目したい。リスペクト、支援、恩義、愛情、感謝、達成感などを基にした無形で非金銭的なやりとりが「社会的交換」であり、これを行う成員と組織、または成員同士の関係を「社会的交換関係」と言う。

 今回は、社内の人間関係からこの「社会的交換関係」を考察し、日米中の組織的特徴と日本企業の強みを考えていきたい。

 日米中の人間関係を見ていく前に、「社会的交換」についてもう少し説明しておこう。この概念は、参加者の数と交換の性質によって、「直接的交換」と「間接的交換」に分類されている。「直接的交換」は、行為者同士が自発的に行う交換のことである。一方、「間接的交換」は、第三者またはそれ以上の参加者によって利益が交換される。

 「直接的交換」には「交渉型」と「義理型」の2種類がある。「交渉型」とは参加者同士が直接交渉する交換のことである。例えば、多忙な時に同僚にヘルプをお願いして、代わりに別のシフトに入る約束をする場合などである。「義理型」とは恩恵を受けた側が確実な約束をせずに義理人情的に相手の利益になる行為をすることである。困った時に助けてくれた人に、感謝の気持ちを込めて積極的に支援することなどがこれに当たる。

 「間接的交換」は、直接利益を提供してくれた人ではなく、別の成員のために恩返しとして行う交換のことである。同じ職場に複数の親密なネットワークがあると、この「間接的交換」の頻度が高くなる。例えば、他部門の同僚を手伝ったことによって仕事が順調に進んだ後、手伝った同僚以外の人に感謝されて応援を受ける場合などである。

日本:「擬似家族」の交換関係

 日本企業は一般的に、海外企業と比較して経済的交換よりも社会的交換関係を重視する傾向がある。成果を上げた社員への報酬として、給料アップなどの金銭的インセンティブを与えるよりも、重要な仕事やポストを任せることを組織からの評価として提供する。

 組織の人間関係の特徴は、簡潔に表すと「擬似家族」である。やや古い感覚ではあるが、部門長は部下を守る家長の役割で、同僚は兄弟姉妹の位置づけとなる、家族と似た関係を持っている。社内で配置転換が順調に進んだ場合、擬似家族の関係は組織の中で徐々に拡大していく。

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