慶應義塾大学商学部による誌面講義のシリーズ3は王英燕(オウ・エイエン)教授による「組織論」をお届けする。組織とそこで働く人の関係がいかに組織の強みに結びついているのか。まずは働き手の感情から分析する。組織とのつながりが弱いとの調査結果もある日本。だが、それだけでは読み取れない関係があるという。

王英燕 教授[Yingyan Wang]
1977年、中国江西省生まれ。98年中国中山大学卒業。2003年、京都大学大学院経済学研究科修士課程修了。07年、同博士課程修了(博士:経済学)。京都大学経済学研究科准教授などを経て、慶應義塾大学商学部教授。米スタンフォード大学修士。(写真=的野 弘路)

 これまで多くの日本企業では、新卒一括採用や職場内外での研修、配置転換、異動などによる長期的な人材育成を前提に、社員との関係を形成してきた。新入社員は研修を終えて職場に配属され、社内の先輩・後輩の序列に組み込まれることで、組織との「濃密」な関係が築かれることになる。

 ところが国際比較調査の中では、「濃密」な関係とは裏腹に、仕事に対する意欲とやりがいを表す「ワーク・エンゲージメント」の低さがしばしば指摘されている。例えば、米国のギャラップ社が公表した2017年の報告では、基本的欲求、個人欲求、チームワーク欲求、成長欲求の4つの側面から従業員のエンゲージメントを調査した結果、日本ではエンゲージメントの高い従業員は6%にすぎないことが判明した。ちなみに米国は33%である。

 数値だけを見ると日本企業の従業員のモチベーションが低いと読み取れるのだが、果たしてそうだろうか。

 同調査における他のアジア圏の国・地域を見てみると、韓国7%、中国6%、香港5%、台湾7%とエンゲージメントの高い従業員の割合がいずれも小さい。実は、この結果は個人の欲求よりも集団目標が優先されるアジア圏の文化の影響が大きい。加えて、日本人の場合は、謙遜して否定的に評価する傾向があり、自らを高評価にすることへの抵抗感があることも要因になっているとみられる。

 日本の就業構造の特徴の一つは、平均勤続年数が長いことである。厚生労働省の調査によると、一般労働者の勤続年数は1976年から2019年の間、緩やかな上昇傾向が示されており、男性は9.5年から13.8年に、女性は5.3年から9.8年に増加している。19年の男女全体の平均は12.4年である。

 前述のギャラップ社の調査結果では、平均勤続年数が10年以上のフランスとイタリアでは、エンゲージメントの高い従業員はそれぞれ6%と5%で、日本と同様の水準であることが分かる。いずれも高齢化が進んでいる国だが、勤続年数が長いほど低水準の傾向があるようだ。様々な経験を重ねると、仕事への意欲とポジティブな気持ちが低下するためだと考えられる。

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