
慶應義塾大学商学部の学部長を務める岡本大輔教授による誌面講義シリーズの最終回。岡本教授は本シリーズでCSR(企業の社会的責任)は企業自身のために必要であると説いてきた。ではCSRは本当に企業業績につながるのか。25年に及ぶ企業分析から見えてきたものとは。
![<span class="fontBold fontSizeM">岡本大輔 教授[Okamoto Daisuke]</span><br> 1958年生まれ。慶應義塾大学商学部卒、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。96年から同大学教授。2019年から同大学商学部長を務める。中外製薬CSRアドバイザリー・コミッティーメンバー、企業と社会フォーラム学会理事・運営委員会委員などを歴任。博士(商学)。(写真=的野 弘路)](https://cdn-business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00133/030800010/p1.jpg?__scale=w:500,h:375&_sh=050600970c)
1958年生まれ。慶應義塾大学商学部卒、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。96年から同大学教授。2019年から同大学商学部長を務める。中外製薬CSRアドバイザリー・コミッティーメンバー、企業と社会フォーラム学会理事・運営委員会委員などを歴任。博士(商学)。(写真=的野 弘路)
この連載では、CSR(企業の社会的責任)、戦略的CSR、CSV(共通価値の創造)、三方よしなど、企業の社会性を巡る様々な概念を比較し、説明してきた。各概念は生み出された時代背景やタイミングが異なり、意義や捉え方もバラバラで、しかも確固たる定義がないものもあるため、世の中の理解には混乱も見られる。
企業で働く方々に話をうかがうと、CSRという言葉を知らないという人は皆無となった。ただ、CSRを狭義の社会的責任や社会貢献と捉えている方もまだ多いのが実情である。
多くの人が上記のような理解で止まってしまうのも無理はない。企業がCSR活動を行うとどのような結果が出るのかに関しては、様々な学術論文はあるものの十分な答えが得られているとはいえないからだ。
本連載では「企業のための社会性」という考え方を提示してきた。しかし、「社会性が本当に企業のためになるのか」という疑問をお持ちになる方もいるだろう。今回は、社会性を追求することが本当に会社自身のためになるのかについて検証していきたい。
業績と社会性の関係を分析
経営学の世界には「CSP-CFP関係」という用語がある。企業の社会に対する取り組み・活動をCSP(Corporate Social Performance)、企業の経済的・財務的な業績をCFP(Corporate Financial Performance)と呼び、その関係を計測する領域を指す。
つまりCSP-CFP関係は、企業が社会的な行動(CSP)をとると、どのような経済的・財務的成果(CFP)が出るかという問題である。これまでも様々な研究がなされてきてはいるが、CSP-CFP関係には様々な条件が絡み、統一した見解が得られていないというのが実情である。
CSPとCFPの関係を示すには、両者を実際に計測して数値で表すことが必要になってくる。
CFPについては財務分析の手法を用い、収益性と成長性から計測できる。企業の目的は長期の維持・発展であり、そのためには収益性と成長性を高めることが必要となる。そこで「収益性+成長性」を示すものとして「財務業績」という変数を作成した。収益性は売上高経常利益率、成長性は4年間移動平均売上高伸び率を用いた。
CSPに関してはCFPのような公開データが当時はなかったため、実際に計測するところから筆者の研究は始まった。1995年、慶應義塾大学商学部の十川廣國研究室で行われたアンケート調査に参加させてもらい、CSPを計測できる質問を企業に投げかけた。
社会性とは、これまでに紹介したように「企業の様々なステークホルダーに対する自らの収益性・成長性以外のコミットメント」との定義である。そこでアンケートでは、従業員関連、地域関連、社会・一般関連、環境関連の項目を入れ、数値化した。サンプルは東京証券取引所上場の製造業である(有効回答252社)。
上記のデータを分析した結果、社会性と財務業績の間には大きなプラスの相関があるということが判明した。つまり、財務業績の高い企業は社会性も高かったのである。
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