株主重視の資本主義の見直しなど、企業と社会の関係性を改めて考える動きが広がっている。こうした動きが広がるのは、人々の生活が企業の製品やサービスと切っても切れない関係になっているからだ。慶應義塾大学商学部の岡本大輔学部長がCSRの観点から「良い企業」の条件を探る。

<span class="fontBold fontSizeM">岡本大輔 教授[Okamoto Daisuke]</span><br> 1958年生まれ。慶應義塾大学商学部卒、同大学商学研究科博士課程単位取得退学。96年から同大学教授。2019年から同大学商学部長を務める。中外製薬CSRアドバイザリー・コミッティーメンバー、企業と社会フォーラム学会理事・運営委員会委員などを歴任。博士(商学)。(写真=的野 弘路)
岡本大輔 教授[Okamoto Daisuke]
1958年生まれ。慶應義塾大学商学部卒、同大学商学研究科博士課程単位取得退学。96年から同大学教授。2019年から同大学商学部長を務める。中外製薬CSRアドバイザリー・コミッティーメンバー、企業と社会フォーラム学会理事・運営委員会委員などを歴任。博士(商学)。(写真=的野 弘路)

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、現在、多くの企業が厳しい経営を強いられている。と同時に、各企業はなぜ自社がこの社会に存在しているのかを問われてもいる。社会が危機にある中、自らの会社が社会にとって必要なのかどうか、改めて考えたという経営者も多いだろう。

 コロナ禍以前から企業と社会の関係を見直す動きは広がってきた。日本のCSR(企業の社会的責任)元年は2003年といわれている。近年では、米国の巨大テック企業であるGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)の台頭や格差の拡大もあって、株主の利益を過度に重視する経営の見直しも米国を中心に広がっている。SDGs(持続可能な開発目標)という言葉も一般的なものになった。コロナ禍はこうした流れをさらに加速する可能性がある。

 CSRやSDGsという言葉の認知度は上がり、「企業の社会的責任」「持続可能な開発目標」という意味も多くの人が知るようになった。だが、「企業の社会的責任」は企業にとってなぜ必要なのか、実際にどのような責任を果たせばいいのかといった問いに対する答えは人によって様々だ。時代背景などによって類似の概念が別の言葉で登場することもある。この連載では近年になって重要性を増している企業と社会の関係性について整理してみたい。

企業に「もうけ」は不可欠

 現代に生きる人々と企業は切っても切れない関係にある。毎日、企業の作った時計やスマホで目を覚まし、企業の作った衣服を身に着け、企業の作った食品を食べ、企業が造った自動車や提供する鉄道で移動し、企業が建てたビルの中で企業が作ったパソコンを使って仕事をしている。企業の製品やサービスのない生活が成り立つかを考えてみれば、難しいことがすぐに分かるだろう。

 では良い企業とは何だろうか。この答えを出すことは簡単ではない。「誰にとって」良い企業かを考慮しなければ、答えを出せないからだ。株主にとっての良い企業と入社を決めた学生から見た良い企業は当然ながら異なる。企業を詳細に評価していくには、この「誰にとって」という主体の問題を詳細に分析していかなければならない。

 一般的によくいわれるのは「もうかっていて伸びている企業」だろう。確かに企業の目的は利潤を得ることであり、もうかっている企業が良い企業であると考えることには一理ある。

 稼げない企業は最終的には、倒産してしまうだろう。倒産すれば株主は損失を被り、その企業で働く従業員も生活の糧を得る手段を失ってしまい、従業員の家族も多大な影響を受ける。その企業の製品やサービスを使ってきた消費者にとっては、慣れ親しんだ商品やサービスがなくなってしまうだけでなく、現在使っている製品の修理など企業が存続していれば受けられた補償を受けられなくなる可能性もある。

 さらに取引先にとっては、倒産企業に販売した商品の代金を回収できなければ連鎖倒産の危機が迫ってくる。取引先企業が倒産すれば、今度は取引先企業の従業員やその家族、株主、消費者、取引先にも悪影響を及ぼす。「お金をもうけるのは良くない、恥ずかしい」という意見もあるかもしれないが、企業にとってもうけることは間違いなく必要なことであり、良い企業に欠かせない条件と言える。

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