近年、日本企業は一貫してコーポレートガバナンス(企業統治)の強化に力を注いできた。中でも社外取締役によって経営を監視する米国型の統治手法は日本企業の手本になっている。だが、コロナ禍のような危機の中で生き残るには、社内取締役中心のガバナンスが必要だと説く。

<span class="fontBold fontSizeM">菊澤研宗 教授[Kikuzawa Kenshu]</span><br>1957年生まれ。慶応義塾大学商学部卒業、同大学大学院博士課程修了後、防衛大学校教授などを経て、2006年から現職。この間、ニューヨーク大学スターン経営大学院、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員。現在、日本経営学会理事などを務める。(写真=竹井 俊晴)
菊澤研宗 教授[Kikuzawa Kenshu]
1957年生まれ。慶応義塾大学商学部卒業、同大学大学院博士課程修了後、防衛大学校教授などを経て、2006年から現職。この間、ニューヨーク大学スターン経営大学院、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員。現在、日本経営学会理事などを務める。(写真=竹井 俊晴)

 バブル経済崩壊後、日本では多くの企業不祥事が発覚した。以後、誰がどのようにして企業を統治するのかというコーポレートガバナンスの問題が注目されてきた。この問題を解決するために手本とされたのは米国流の株主主権のガバナンスであり、政府はこれまでその方向でガバナンス改革を進めてきた。

 社内取締役の多い日本では、企業行動を監視するために、とりわけ社外取締役の重要性が叫ばれている。そのため、日本のコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)は、上場企業に対して2人以上の社外取締役を義務づけている。現在、多くの日本企業がこのガバナンス・コードに従い、その比率が30%以上の日本企業も増えてきている。

 ところが、ダイナミック・ケイパビリティ論の創始者であるD・ティース教授は、この傾向に疑問を呈している。むしろ、ダイナミック・ケイパビリティ論からすると、社内取締役の役割の方が重要だという。このことを、コロナ禍に直面する中で浮き彫りになっている社外取締役中心の米国企業と社内取締役中心の日本企業との違いに関係づけて説明してみたい。

経営者は「代理人」か

 コーポレートガバナンス問題は、一般的にはエージェンシー問題だといわれている。エージェンシー理論は、すべての人間関係をプリンシパル(依頼人)とエージェント(代理人)という関係で分析するものだ。コーポレートガバナンスについていえば、プリンシパルとしての株主とエージェントとしての経営者との関係ということになる。

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 エージェンシー理論では、すべての人間は限定合理的で利己的利益を追求するものと仮定される。それゆえ、プリンシパルとしての株主とエージェントとしての経営者の利害は相互に一致しないし、株主は完全には経営者の行動を監視できないので、両者の情報は非対称的なものとなる。

 上記のようなエージェンシー関係では、経営者は利己的利益を追求するために、株主の情報の不備につけ込んで隠れて資源を無駄遣いするだろう。このような不正で非効率的な経営行動がエージェンシー問題であり、モラルハザード(道徳欠如行動)と呼ばれる現象である。そして、経営者のこの行動によって企業価値は減少し、株主は損失を被ることになる。

 企業価値の減少を最小化するために、いかにして株主が経営者のモラルハザードを抑止するのか。これが、コーポレートガバナンス問題である。エージェンシー理論的には、解決策は2つしかない。すなわち、プリンシパルである株主とエージェントである経営者との間の利害を一致させるか、あるいは両者の情報を対称化するかである。

 例えば、情報を対称化するために、株主は企業に正しい財務諸表の開示を要求する。また、利害を一致させるために、株主は経営者に自社株購入権(ストックオプション)を報酬として与えたり、株主代表として社外取締役を取締役会に送り込み、経営者を直接ガバナンスしたりする。

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