日本企業にとって急務といわれるデジタルトランスフォーメーション(DX)。だが、DXが事業パラダイムの変革につながり、新たな付加価値を生み出さなければ意味がない。デジタル化においても日本の組織構造は本来、変革につながりやすいはずと菊澤教授は訴える。

<span class="fontBold fontSizeM">菊澤研宗 教授[Kikuzawa Kenshu]</span><br>1957年生まれ。慶応義塾大学商学部卒業、同大学大学院博士課程修了後、防衛大学校教授などを経て、2006年から現職。この間、ニューヨーク大学スターン経営大学院、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員。現在、日本経営学会理事などを務める。(写真=竹井 俊晴)
菊澤研宗 教授[Kikuzawa Kenshu]
1957年生まれ。慶応義塾大学商学部卒業、同大学大学院博士課程修了後、防衛大学校教授などを経て、2006年から現職。この間、ニューヨーク大学スターン経営大学院、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員。現在、日本経営学会理事などを務める。(写真=竹井 俊晴)

 現在、日本では企業のデジタル化が急務だといわれている。デジタル化によって、変化対応的な自己変革能力であるダイナミック・ケイパビリティはより発揮しやすくなり、企業はより環境の変化に適応しやすくなるだろう。

 しかし、企業のデジタル化には様々な課題がある。その課題を明確にするために、ここではデジタル化の極限ともいえるデジタルツイン(デジタル上の双子)技術を取り上げてみたい。

 企業のデジタル化をめぐって最終的に問題になるのは、人間との関係なのである。デジタル化をするに当たって人間の存在が障害となる。それゆえ人間を排除していく欧米型デジタルツイン技術と、あえて人間の存在にこだわる日本型デジタルツイン技術との争いとなる。はたして、どちらの方向性が正しいのかについて考えていきたい。

 デジタルツインとは、リアル(物理)空間に関するデータを収集し、そのデータを基にサイバー(仮想)空間で鏡のようにリアルを再現する技術のことである。そして、リアルとサイバーの2つの世界を相互に作用させて、より最適な状態を形成するシステムが、CPS(Cyber Physical System)である。

 このデジタルツイン技術は、特に製造業にとって有効だといわれている。開発された製品の事前検査では、これまでもデジタル技術が利用されてきた。しかし、従来の仮想モデルは固定的で変化しないため、実際に製品が使用されると徐々に劣化し、仮想モデルと現実の製品との間に大きなギャップが発生するという問題があった。

 この問題を解決したのがデジタルツイン技術である。製品にセンサーを取り付け、販売先で実際にどのように使用されているのかのデータを取得し、それを解析して仮想モデルを忠実につくる。それによって、仮想モデル自体も変化し、現実の製品と同じ状態に近づけることができる。この仮想モデルを用いれば、現実の製品をいつどのようにメンテナンスし、改善すればいいのかを予測できる(図1)。

<span class="fontBold">●図1 : デジタルツインとCPS(Cyber Physical System)のイメージ</span>(イラスト=PIXTA)
●図1 : デジタルツインとCPS(Cyber Physical System)のイメージ(イラスト=PIXTA)
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 このように、デジタルツイン技術を用いれば、現実に起こっている変化をいち早く感知(センシング)し、それをデータ化し、その新しいデータに基づいてデジタルツインを絶えず最適化(シージング)し、そしてそれに基づいて現実を改善したりメンテナンスしたりして自己変容(トランスフォーミング)させることができる。このように、企業はデジタルツイン技術に基づくCPSによってダイナミック・ケイパビリティをスムーズに発揮することができる。

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